「エーオンシー(AONC)」は、“誰もが、ありたい自分を自由に選び取れる世界を作る”をミッションに掲げるブランドだ。同ブランドは事業の第一弾となる、障がい者の視点から開発したランジェリー“ザ エーオンシー ブラ&ショーツ”を6月26日、社会問題と向き合うクラウドファンディングのプラットフォーム「グッドモーニング(GOODMORNING)」で発表した。井上夏海代表は、「障がい者という視点は確かに大事だが、彼らの選択肢を増やすためには、まずはビジネスとして機能するべきだ」と語る。
井上代表は、現在も外資系コンサルティング企業に勤務する会社員。仕事を続けながら、今年「エーオンシー」を創業した。身近に障がい者がいたわけでもなく、起業したいと思い、リサーチする過程で“アダプティブ・ファッション(障がい者が着脱しやすい機能を備えたアパレル)”の存在を知る。海外では、「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」などの大手ブランドが“アダプティブ・ファッション”を手掛けているものの、日本ではまだ介護用品として捉えられたり、機能重視でデザイン性が劣っていたり、価格が高かったり、選択肢が非常に少ないことに気付いたそうだ。「さまざまなサイズの服があるのと同じように、障がい者のためのファッションがあるべきだ。福祉や社会貢献を声高に謳うものでなく、フラットな目線でビジネスをすることに意義がある」と一念発起し、“アダプティブ・ファッション”にビジネスチャンスを感じて起業した。
“デザインが好きで、着けやすいから欲しい”と思われる下着を
井上代表の思いは、“ザ エーオンシー ブラ&ショーツ”の開発に向けて話を聞いた障がい者の声で確信へと変わる。「“してあげる”という福祉の要素が強いと違和感を感じる」「着脱しやすいなどの機能が視点の商品には壁を感じる」といった彼らの声が、ブランドのコンセプトのベースとなった。そこから導かれたのは、“障がい者のための下着ではなく、障がい者も着けやすいランジェリー”。機能性があるから買うのではなく、“このデザインが好きで着けやすいから欲しい”と思われる下着の制作に取り掛かった。
コンセプトは決まったものの、実際にもの作りを始める段階となると、下着業界で働いた経験も人脈もない井上代表は悪戦苦闘。協力してくれる企業や工場を探して40社近くにアプローチしたものの、ほとんどが門前払いだった。あきらめかけた矢先に協力を申し出てくれたのが、エムアイシー(MIC)の神崎淳志社長だった。同社はODM・OEMメーカーとして数多くのヒット商品に携わる老舗下着会社。MICとの二人三脚で、打ち合わせからサンプル制作まで、そして、モニター着用や製品改良を何度も繰り返しながら完成に至った。
商品開発には障がい者のモニタリングとヒアリングが必須だが、そのモニターは井上代表がSNSを通じて声をかけた約20人が参加。“障がい”とひと言でいってもその状況はさまざまだ。今回は、主に脳性麻痺の障がいがある人の話を聞き、手先の細かい動作をしにくい人でも着けやすい工夫を施した。
「谷間をきれいに見せたい」や「おしゃれなデザインがいい」といった声を反映
モニターやヒアリングを重ねる中で出てきたのが「谷間をきれいに見せたい」や「おしゃれなデザインがいい」といった声。それらを叶えるため、MICが保有する特許技術による3D立体成形カップを採用した。フロントホック部分はマグネットを使用して着脱しやすくしたり、胸を寄せるための羽にマジックテープを使用したりといった機能を持たせ、デザインの一部として見せられるように工夫した。また、ショーツには、引き上げやすいようループが付けられている。
「『AONC』は障がい者のためのブランドではない」と言い切る井上代表。「バストをキレイに見せつつ、着脱もしやすい下着として認知を広げたい」と話し、自身も“ザ エーオンシー ブラ&ショーツ”を他の下着と同じように日常生活で着用する。今後は、肩が痛くて後ろに手が回しにくい人、肩を動かしにくい人、授乳中の女性などの需要も見込む。
ブランド名「AONC」は“アズ・ワン・チョイス(As One Choice)一つの選択肢として”の頭文字をとったもの。“多くの選択肢がある中の一つ”という意味が込められている。その実現を目指し、これからも“助ける”というスタンスではなく、障がい者と対等の立場でビジネスを構築していく。