ファッション

「コーチ」、循環型ファッションに向け新たな挑戦

「コーチ(COACH)」はサブブランドとして、循環型のモノ作りに焦点を当て、Z 世代とともに新しいファッションシステムの構築を掲げる「コーチトピア」を発表した。イギリスを皮切りに販売をスタートし、9月29日に日本でもローンチした。完全循環型ビジネスモデルを追求したバッグやアクセサリー、ウエア、シューズをラインアップする。具体的には、「コーチ」の製造過程で出た廃棄物や余剰在庫の素材、環境再生型農業に取り組む農場から調達したレザーなど、リサイクルや再利用、再生可能な素材を中心に、新しい素材を使わず、リサイクルを前提としたモノマテリアル(単一素材)を用いた商品開発を行う。80年以上の歴史を持つレザーブランドのサステナブルな革新的挑戦に注目が集まる。

循環型ブランドの新たな形
「コーチトピア」

オールジェンダー向けの「コーチトピア」のコレクションは、バッグやアクセサリー、ウエア、レザー小物などがそろう。ここでは、代表的な商品を紹介する。

“ウェイビー ディンキー ショルダーバッグ”は、1973年に発売された「コーチ」のバッグ“ディンキー”を波形のシルエットに再解釈したデザイン。その背景には、当時のアートや社会運動といったムーブメントに加え、直線型のファッションシステムを超えた取り組みを掲げる「コーチ」のミッションへの思いが込められている。

カラフルなレジンチェーンには、プラスチック製品の製造工程で発生したスクラップを少なくとも70%再生使用した樹脂を用いた。ペットボトルのキャップやカトラリーなど、使用済みプラスチックを色で選別し樹脂で固めたことで、ポップなデザインに仕上げた。ボディーにはシェルレザーという廃棄予定のレザーの端材を少なくとも50%再生利用したリサイクルレザーを採用。またフチ部分は再利用やリサイクルを考慮し、解体しやすいように糊ではなく糸で縫い合わせているのもポイントだ。

1990年代のアーカイブバッグがサステナブルに生まれ変わった“エルゴバッグ”は、使い勝手のいいミニマルなトップハンドルとコンパクトなサイズ感が魅力なだけでなく、何度も繰り返し使えるよう再利用やリメイク、リサイクルの経路が明確な廃材を使ったデザインが特徴だ。市松模様のモデルは 、「コーチ」製品の製造過程で出た端切れレザーを四角く切って縫い合わせたアップクラフト。フチとハンドルには環境再生型農業に取り組む農場から調達したレザーを使用した。

“リレーサブル トート”の特長は廃棄物ゼロのパターン。ひもを解くと、バッグのボディーを解体でき、財布や革小物に作り替えることが可能だ。パーツごとのカスタマイズや修理も簡単にできる。また平らなままコンパクトに発送できるため、輸送時のコンテナの数を減らし環境 への影響を抑えられる。

アパレルから小物まで
バリエーション豊富

ウエアには、製造工程で生まれた綿織物の端切れやリサイクルされた衣類から作られた素材、またはそれらを組み合わせた素材を少なくと98%使用。全ての商品は店舗で引き取り、新たな素材として生まれ変わらせ、廃棄物が発生しないクローズドループ型のリサイクルの流れを構築する。ほぼ全てに「デジタルパスポート」を適用したNFCチップ搭載している。

「コーチトピア」は業界に変化を
もたらすと信じている

WWDJAPAN(以下、WWD):「コーチト ピア」立ち上げの背景は?また特徴とは?

スチュアート・ヴィヴァース=クリエイティ ブ・ディレクター(以下、スチュアート):数年前から「コーチ」における持続可能性についての調査を始めたことを機に、循環型デザインについて模索した。既存のファッションシステムに課題があることは明白だったし、われわれも未来について頻繁に話すようになった。その柱として、「コーチ」 だけでなく、産業において無駄を出さないクリエイションを実現すること。廃棄物から創造するという考えを要とする。

WWD:とても明るくポジティブなムードが印象的だ。

スチュアート:「コーチトピア」は、地球に対してさまざまな視点を持つようになった1960〜70年代のポップカルチャーやカウンターカルチャーに影響を受けている。その中でデザイン面では、包括的なムードを作り出すことを重要視した。

WWD:持続可能な素材を用いることで、クリエイティブへの限界や表現の自由に難しさを感じないか。

スチュアート:多くの場合は問題をデザインで解決するため、妥協しなければならない場合もあるが、私は早い段階から試験的に取り組んだため、妥協を感じることも、デザインの完成度を損なうことも決してなかった。しかしそのためには、専門知識を身につける必要があり、新しい素材や技術を採用するには時間も要する。もちろん全てがうまくいくとは限らないが、これまで以上に自分のクリエイティブ力を深められる点はとても面白い。私はデザイナーとして美しさを常に追求してきたが、あらためて自分が選んだ素材や決断に対して、もっと責任を持たなければいけないという気付きも得た。

WWD:Z世代を中心とした“ベータ コミュニティー”からはどんな学びがあったか。

スチュアート:透明性についての意見は多かった。例えば、ラグジュアリーは完璧なデザインを意味するような従来の捉え方とは違い、地球にとってどんないいことがあるかといった彼らの純粋な視点がとても新鮮だった。彼らは真の情報に基づいた選択をしたいと考えている。私自身も既存のものに頼らないというマインドを再確認した。ラグジュアリーの本質が何を意味するのかをオープンに考えていくことが必要になってくるだろう。

WWD:循環型商品を生み出すためには、深刻ながらも楽観的で前向きであることが必要だと思うが、どう向き合っているか。

スチュアート:ファッション業界が直面している課題は何かを考えるが、私自身もモノ作りに対して罪悪感を感じ始めていた。しかし、「変化を起こそう」と動き始めた。罪悪感から好奇心が生まれ、今では純粋な情熱になっている。

WWD:今後期待することは?

スチュアート:「コーチトピア」は「コーチ」にとってゲームチェンジャーになるだろうし、 業界にとって建設的な変化をもたらすと信じている。失敗しながらも、未来への希望を導くために自分たちが正しいと思うことを貫き、続けるのが大事だ。好循環な取り組みが好循環な関係性を生み出す。それが最大の効果となるのだろう。

環境活動家やクリエイターなど
世界のZ世代が集まる

「コーチトピア」の革新的なコレクションに、若き価値観そしてパワーを吹き込む集団が“コーチトピア ベータ コミュニティー”だ。“コーチトピア ベータ コミュニティー”には、環境問題への関心が高い世界中のZ世代を中心に、環境活動家やデザイナー、アーティスト、動画クリエイター、モデルなどさまざまな分野で活動するメンバーが集う。彼らは専門家による循環型デザインなどについての講義を受け、デザインチームやメンバーとのコミュニケーションを通して、「コーチ」の余剰在庫や残布などの廃材を使った循環型デザインのアイデアを提案したり、店舗のインテリアを制作したりと、関わり方はさまざまだ。メンバーそれぞれの強みを生かしヴィヴァース=クリエイティブ・ディレクターとともに「コーチトピア」独自の循環型デザインを進化させる大きな役割を担う。

日本からは、循環型ファッションの実現を目指すコミュニティー「ニューメイク」のディレクターの吉村真由さんやアップサイクルブランド「ドゥッカ ヴィヴィット」 のデザイナー、菅内のど佳さん、世界の次世代リーダーらとSDGsなどについて考える国際プラットフォーム「ワン・ヤン グ・ワールド」2022年アンバサダーを務めたオーストラリア出身のモデル、早坂シャーニィーさんのほか約30人が参加する。

今後「コーチトピア」を通じて発信したいことを聞くと、「『コーチトピア』の魅力 は、環境問題に詳しくなくても、自由に楽しく参加できること。身近なものから疑問を持てば、取り組みやすくなる。ポップでカラフルなコレクションを通して、たくさんの人と未来について考えていきたい」 (早坂さん)。「私はラブの気持ちを持って、 ハッピーな循環ができるよう、世の中に新たな選択肢を届けたい。さまざまなサステナブルな取り組みを学んでいるが、あらためて循環という形が未来の地球にとって一番いい形だなと思う。世界を変えられるはず」(菅内さん)。「かわいいバッグを見た時の喜びやモノを捨てずに済むという発見、大事なものを違うものに生まれ変わらせるという驚き。そうした高揚感や感動といった心が動くソーシャルグッドな体験を『コーチトピア』でたくさん作っていきたい。サステナブルの楽しさを世界に発信していきたい」(吉村さん)。

TEXT:RIE KAMOI
PHOTO:SEIGO ISHIZAKA,KAZUNORI IGARASHI(WISH),SHUHEI SHINE
問い合わせ先
コーチ・カスタマーサービス・ジャパン
0120-556-750