一部デザイナーズブランドでは近年、イメージの刷新と若返りを図り、教育機関を卒業して間もないZ世代のデザイナーをクリエイティブ・ディレクターに起用する動きが相次いでいる。しかし、こうした大胆な人事は、多くの場合で“破断”に。一方、彼らとタッグを組む最高経営責任者(CEO)の交代も相次いでいる。米「WWD」によると、今年1〜5月までの主要企業におけるトップ交代は10件以上。その数は、前年の同時期に比べて増えているという。一体、何が起こっているのだろうか?
多くのブランドで、若手クリエイティブ・ディレクターがトップに就くも、早々に退任する異常事態が相次いでいる。ルドヴィック・デ・サン・サーナン(Ludovic De Saint Sernin)は、「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」のクリエイティブ・ディレクターをわずか1シーズンで退任。これは、「ゲーエムベーハー(GMBH)」のセルハト・イシク(Serhat Isık)とベンジャミン・A・フゼビー(Benjamin A. Huseby)が「トラサルディ(TRUSSARDI)」、シャルル・ドゥ・ヴィルモラン(Charles de Vilmorin)が「ロシャス(ROCHAS)」の同職をそれぞれたった2年で去ったことを上回る“最短記録”だ。同時期には「バリー(BALLY)」のルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villasenor)も、1年あまりで退任した。「フィオルッチ(FIORUCCI)」でメンズのアーティスティック・ディレクターを務めたダニエル・フレッチャー(Daniel Fletcher)もまた、「円満」とは言うが、後任が決まらない状態で退職している。
クリエイティブ・ディレクターは、CEOとともにブランドの顔であるにもかかわらず、一部のブランドでは近年のファッション史を振り返ってみても珍しいほどにコロコロと入れ替わっている。その背景には、ファッション業界での経験が乏しい投資家出身のブランドオーナーが増え、改革の結果を急いでいる状況が考えられる。近視眼的な判断や、余裕の少ない財政状況がこうした事態を生み出し、拍車をかけているのだ。
業界未経験のオーナーは
採用に必要なスキルを持っていない
そもそも新しいクリエイティブ・ディレクターが定める方向性に伴い、ブランドがどう変化・成功するかを見極めるには、最低2年が必要だ。最初の半年程度は前任のクリエイティブ・ディレクターが作り上げたものを継承することを踏まえると、わずか1シーズンや1年での退任には疑問を禁じ得ない。加えて業界未経験のオーナーやCEOの多くは、クリエイティブ・ディレクターの採用に必要なスキルを持ち合わせていないケースも多い。
若手クリエイティブ・ディレクターには、ブランドとその商品イメージを刷新し、若い世代を中心に新たな顧客を獲得する役割が課せられる。もちろん、それは簡単なことではない。経営陣がクリエイティブ・ディレクターをしっかりとサポートする体制が重要だ。とある業界人は、「新任クリエイティブ・ディレクターのコレクションが売れなかったとき、経営幹部に必要なのは、彼らの更迭と後任探しではないはず。どうしたらブランドのビジョンとコレクションをすり合わせることができるのか?もしくは、そのコレクションを売ることができるのか?を共に考えることだ」と話す。しかし彼は採用同様、修正スキルも持ち合わせていない経営陣が多いことを危惧している。独立系や小規模なブランドの状況はさらに厳しい。予算は少なく、変化するデジタルマーケティングへの対応も困難だからだ。
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