「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」は25日、品川プリンスホテル内の水族館「マクセル アクアパーク品川」で、2024年春夏コレクションを発表した。閉館後の1時間を貸し切り、来場者はスマートフォンで久保嘉男デザイナー自身による音声ガイドを聴きながら、巨大な水槽の間を歩いて見て回る。モデルの背後や頭上を巨大なサメやエイ、熱帯魚がゆったりと泳ぎ、どこを切り撮ってもフォトジェニックだ。
テーマは「混濁」。「分厚いガラスに顔を近づけたときの視界のゆがみや、ラムネの瓶を通して見た景色、結露の窓の向こうのぼんやりした景色などを、ゆらぎ重なる涼爽服で表現したかった」と久保。「かと言って、服に水や水槽をくっつけるのは現実的ではないから生地の重なりや、カッティングでそれを表現した」とユーモアを交えた解説が続く。
いつでも服作りに全力で、アイデアを注ぎ、生地とディテールにこだわる。それは今季も変わりないが、ズラす、透けさせるといったハズしの技が効いて熱いメッセージが軽やかに届いてくる。構築的な服も、触れば生地はどれも驚くほど軽やかで薄いことがわかる。多用したレーザーカットがその軽さを引き立てており、カットにより“向こう側”を見せたり、薄い葉柄のモチーフを重ねて動きを作ったりしている。
裏側に海の生き物を描いた服など、近くで見てわかるアイデアもたくさんある。「今季もややこしい服を作った。通り一辺倒ではなく、何モノか、わからないから目を凝らしてはっきりと見たいという気持ちが掻き立てられる服になったと思う。考え尽くして作った服は、簡単に消費されることはなく、愛着を持って着続けてもらえるはず。これがファッションデザイナーができるサステナビリティの実践だと思っている」。
来場者は、気がつけば水槽の間を何往復もし、魚を見たり、服を見たり。知り会いと言葉を交わしたり、考え込んだり、写真を撮ったり。時間は各々のペースで流れて、最後にはコレクションのメッセージがしっかりと頭に残る。これはいわゆるファッションショーではないが、メッセージを伝え、服の魅力を伝えるという意味ではその役割を十分に果たしていると言えるだろう。