サステナビリティ

パイナップル葉繊維で世界のファッション産業を変える フードリボンが目指す幸せの循環

2017年創業のフードリボン(FOOD REBORN)は、沖縄・大宜味村を拠点に、パイナップルやバナナの収穫時に出る葉や茎から繊維などを生み出す企業だ。同社は、これまで廃棄されてきた農産物資源を天然繊維に生まれ変わらせることで価値を与え、農家の所得向上を目指す。将来的には循環社会を作り出すべく活動の幅を広げており、22年にはTSIホールディングスおよび豊島と業務提携を結んだ。アパレル大手も賛同する取り組みや、パイナップル葉繊維の特徴とは。

廃棄するパイナップルの葉
その大きな可能性に着目

フードリボン創業地の沖縄は、パイナップルとシークヮーサーの名産地だ。同社はシークヮーサーの商品開発事業からスタート。次に、廃棄されるパイナップルの葉の再利用の可能性に着目した。

世界で生産されるパイナップルの半分は東南アジア産で、パイナップルの葉は食用の果実の数倍以上となる約6000万トンが毎年廃棄されているという。東南アジアでは以前から、廃棄する葉から繊維を作り出す試みが行われていたが、手作業の工程が多く、品質維持も難しいという課題を抱えていた。

フードリボンもこの研究を2019年から開始したものの、当初は価格と品質面のハードルが高く、流通するまでには至らなかった。しかし3年間の試行錯誤の末に、水圧によって葉に付着する蝋とリグニンを破砕し、繊維を抽出する技術を開発。1秒1gのスピードかつワンステップで葉を繊維と残渣に分別でき、水は循環させて利用することで、低い環境負荷で1時間3.6kgの繊維の量産を実現させた。

さらに、機械を縦1.5×横1.5×高さ1.5mと小型軽量化して農園に設置しやすくし、農家に新たな収入源を創出する仕組みも構築した。現在は、日本のパイナップル生産の98%を占める沖縄から設置を開始している。24年3月までに沖縄に20台、インドネシア、フィリピン、タイ、台湾、ベトナム、マレーシア、インドに合わせて1000台を配置して、月産1000tの生産を目指す。将来的にはブラジルなどにも普及させ、年間15万tのパイナップル葉繊維の生産を計画。10年後には、世界のコットン市場の5%をパイナップル葉繊維の混紡綿に置き換えるのが目標だ。

フードリボンは機械を無償で農家に貸し出し、取り出された繊維を農家から買い取って糸にし、それをアパレル企業に販売している。さらに繊維を抽出した後の残渣は発酵させて家畜飼料にし、一部はマイクロパウダーにして生分解性樹脂の混合材として商品化する。この素材を使ったバイオプラスチックのストローをすでに販売中で、年内には海洋生分解性樹脂と配合したカトラリーも発売予定だ。

フードリボンの天然繊維事業は沖縄をはじめ、台湾やインドネシア、中国でもプロジェクトを進めている。今後は環境問題、農家の貧困課題を解決しながら、新しいファッション素材を提案していく。

絹のような光沢と機能性で
アパレル全般に対応

パイナップル葉繊維は天然繊維の中でも非常に細く、単繊維ではシルクの2分の1〜4分の1に当たる5ミクロンの細さが特徴だ。これは、マイクロファイバーにも匹敵する。その細さゆえ、最も相性のいいコットンのほか、シルクや麻などあらゆる繊維との混紡が可能だ。混紡率は現在パイナップル葉繊維30%、コットン70%を推奨しており、新しい紡績方法や混紡率の糸の研究も進めている。

繊維は絹のような光沢があり、柔らかく、抗菌性や通気性、吸水性、保湿性などに優れる。また、糸には強度があり、太さのある糸へのアレンジも自在のため、薄手のシャツからドレスシャツまでアパレル全般に対応するほか、リネンやタオル類にも適している。さらにビーガンレザーも開発中で、完成すればバッグや靴、インテリアの生地としても使える見込みだ。現在の価格帯はオーガニックコットンと同等だが、今後はフードリボンの抽出機で量産体制を整備することで、スケールメリットを図る。

Voice from 泉州タオルメーカー(下代勝/富士産業社長)
沖縄に根差した“今そこにある環境問題“の解決からスタートし、地域の支持を得ているフードリボンに感銘を受けた。沖縄ではパイナップルの葉は谷あいに埋めていたが、葉は繊維質で固く、なかなか土に還らないそうだ。それらを埋めずに再利用するだけでも、地域にとって大きな前進。細くて長いパイナップル葉繊維は高品質なタオル製品に適している。“既にそこにある廃棄物“を有効活用したタオルを大阪・泉州から発信していきたい。

“ファッション業界に風穴を開け、
社会をも変えられる可能性”

私たちは繊維やバイオプラスチックを売ることが目的ではない。社会の向きを少しだけ良くしていく運動体がフードリボンだ。沖縄に軸足を置き、国境を越えて世界のパイナップル生産地と連携していけば、パイナップルの葉繊維事業はファッション業界や社会を変えられる規模になる。商品を手にした消費者に、自分の身の回りの環境について考えるなどの意識改革を起こすことができれば、幸せが循環する世界はきっと実現できると信じている。私たちが創業から目指しているのは、大宜味村のおばあから教えてもらった、自分たちだけでなく、次世代の幸せも願って行動すること。この目には見えない大切なことを形にして伝えていけば、自分の幸せになって返ってくるはずだから。

問い合わせ先
フードリボン 那覇事務所
098-917-1830