英国の「バーバリー(BURBERRY)」「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」で経験を積んだ坂井俊太が、メンズブランド「パラトレイト(PARATRAIT)」を2023-24年秋冬シーズンに立ち上げた。ブランド名は“パラレル”“ポートレート”を掛け合わせた造語で、“衣服を分岐進化させ並行世界の肖像を生み出す”をコンセプトに掲げる。同ブランドの特徴は、パフォーマンスウエアの構造や技術を、トラディショナルなウエアに採用するというアイデアだ。デビューシーズンは、ウールを熱圧着し、透湿防水加工したアウターをはじめ、ニッカポッカのような変形シルエットのパンツ、ニットウエアなど約20型をそろえる。生地は全て国内生産。現在の卸先はリステア(RESTIR)やザ トウキョウ(THE TOKYO)、大阪のシルバーアンドゴールド(SILVER AND GOLD)など7アカウントだ。
絶好調「バーバリー」での経験を経て
坂井デザイナーは文化服装学院で学んだ後に20歳で渡英し、イスティチュート・マランゴーニ(Istituto Marangoni)のロンドン校で修士課程を修了。「アレキサンダー・マックイーン」でのインターンを経て「バーバリー」に入社すると、クリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)率いるウィメンズウエアチームのデザイナーを5年間務めた。坂井デザイナーは「当時はブランドが絶好調の時期で、環境も任される仕事も全てが刺激的だった。同時に、自分にしか作れないものを作りたいという思いも徐々に強くなっていった」と帰国を決意する。
同氏は帰国後にデザイン会社を立ち上げると、国内外のウィメンズ・メンズブランドへのデザイン提供や、フィッシングブランド「ダイワ(DAIWA)」のデザイナーも務めている。22年には自社のバッグブランドとして「オビューズ(OBVUSE)」を立ち上げた。「『ダイワ』でさまざまな機能服に携わるうちに、テックウエアの技術でトラッドを作ったら、新しいデザインが生まれるのではないかと構想が浮かんだ。日本は機能素材を作る技術がとても高い。その素材を生かしながら、日本人しか作れない、自分にしか作れないものができるという確信を得た」。ファッションブランド立ち上げに向けて本格的に動き始めると、1年後の23-24年秋冬シーズンに「パラトレイト」はデビューを果たした。
メンズブランドを選んだ理由
2シーズン目となる24年春夏コレクションは、ベースとなるトラッド要素をやや強めながら、はっ水加工したコットンに透湿防水フィルムとトリコットを貼り合わせたカジュアルな3レイヤー構造や、伊アルカンターラのテクニカルスエードをディテールに多用したり、コットンを樹脂コーティングと特殊加工でレザータッチにしたりと、さまざまなテクニックを盛り込んでいる。英国で学んだトラッドというファッションの王道に、熱圧着で縫製を省略したシルエットの微妙な変化や、今季のテーマ“不可視光線”を表現したプリントなどのニュアンスをなじませながら、緻密に作り上げた24型のコレクションだ。価格帯はコート8万8000〜12万円、ジャケット6万3000円、ブルゾン3万8000〜3万9000円、シャツ2万8000〜3万4000円、パンツ3万3000〜3万9000円など。
ウィメンズウエアの王道を学んでいた坂井デザイナーは、なぜメンズのブランドを立ち上げたのだろうか。「実は、過去に競技としてアルペンスキーに本格的に取り組んでいた時期があり、パフォーマンスウエアは自分の身近にあった。英国でトラッドやモードを学び、『ダイワ』でパフォーマンスウエアが再び身近になったことで、『パラトレイト』の男性像が見えてきた。周囲には『なんで』って驚かれたけど」。メンズ特有のギアっぽいプロダクトの“硬さ”をあえて残しながら、多ジャンルのものづくりを横断する坂井デザイナーにしか生み出せないニュアンスを武器にトラッドをアップデートさせ、販路拡大を目指す。