ファッション

「コム デ ギャルソン」2014-15年秋冬パリ 心に住むモンスターが服になったら

 モデルの頭上の至近距離から照らす強い照明。モデルが歩くと照明も音を立てて頭上を移動し、服を照らし続ける。一ルックずつをゆっくりと丁寧に見せ、服の細部を浮き彫りにし、見る者に考える時間を与える演出だ。

 ショーの中盤、顔を黒いニットで覆ったモデルが、映画「千と千尋の神隠し」の"カオナシ"に見えてしまったとしてもそれはあながち間違っていない。なぜなら、デザイナーの川久保玲からのキーワードは「モンスター」だから。ただしキャラクターとしてのモンスターではなく、人間の怒りや悲しみが服を借りて具現化した「モンスター」。それは醜か美か、と見るものに問いかけている。

 ファーストルックは、巨大なメンズのジャケットとニットのインナー。2着はステッチで繋がっていてワンピースになっている。権威を欲するスーツの男の欲望が肥大化した、という意味だろうか?

 続くほとんどのルックがネイビーや黒、グレーのニットで、素材はウールやコットン、アクリルなど。ローゲージからハイゲージまでさまざまなニットがハイブリッドされている。ボトムスも穴の開いたニットを転写プリントしたタイツだ。嫉妬や欲望が内面から溢れ出すように首回りは伸びて、ニットの袖は3本、4本と増殖して飛び出し、身体の周囲に絡まり拘束してゆく。

 この服が実生活で着られるか着られないかを議論することは無意味だ。映画監督が映像やストーリーを通じてメッセージを伝えるように、川久保玲はファッションショーを通じて、今の彼女が考える「美しさ」についてメッセージを伝えている。

 そしてそんなショーの在り方を実現・継続させているのは、時代のムードをとらえる嗅覚の鋭さにある。ショーのキーワードである、ニット、メンズ服、オーバーサイズ、レイヤードといった要素は、ずばり今シーズンのトレンド。巨大なルックとなって登場するランウェイではトレンドには見えないが、展示会でコマーシャルのラインを見れば、ショーの強いメッセージと"トレンド"はバランスよく服に収まっていることがわかる。欲望が"増殖"したような編み込みは小さくなってコンパクトなセーターに飾られ、穴開きニットの転写プリントもTシャツとして登場する。

 これらのアイテムについて、トレンドと表現されることは、川久保玲は好まないだろう。しかし、トレンドとは人間の気持ちであり、欲望。人間の欲望を知ろうと追求しているデザイナーが、結果トレンドを突く服を提案することになるのは当然だ。

COMME DES GARCONS x スナップの記事

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

25-26年秋冬シーズンを大解剖 ムード・アイテム・素材・色柄・ディテール・バッグ&シューズが丸わかりのトレンドブック

4月21日発売の「WWDJAPAN」は、2025-26年秋冬コレクションを徹底解剖したトレンドブックです。今シーズンもパリとミラノ、ニューヨーク、そしてロンドン・コレクションの全てを詰め込みました。例年通り、キーワード(ムード)やアイテム、素材、色柄、ディテール、そしてバッグ&シューズのトレンドを分析。さらには「グッチ(GUCCI)」に移籍するため「バレンシアガ(BALENCIAGA)」最後のプレ…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。