ファッション・繊維産業と行政との関係といえばこれまで、製造業を取りまとめる経済産業省との対話が中心だった。しかし脱炭素、という大きなうねりの中で環境省と産業の取り組み、そして省庁を超えた協業が重要度を増している。元「エルメス」という経歴を持つ山田美樹・環境副大臣が、同職に就いて1年。G7の成果や、実証事業、そして「デコ活」と呼ぶアクションプランについて聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):環境副大臣に就任から1年を総括すると?
山田美樹・環境副大臣(以下、山田):環境省に副大臣が2人いる中で、私は主に気候変動と生物多様性、特命案件としてサステナブルファッションを担当してきた。気候変動の分野では、今年の通常国会でGX (グリーントランスフォーメーション)を推進するための2つの法律が成立。今後10年間で官民合わせて150兆円の投資をしていくことが決まったことが大きかった。
環境省としては「地域と暮らし」をテーマに、地域脱炭素のモデルになる脱炭素先行地域の選定を進めると同時に、ライフスタイルの転換を後押しするために「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を2022年10月に開始し、個別のアクションの第一弾としてサステナブルファッションにフォーカスした。
生物多様性の分野では「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されたのを受け、日本は世界に先駆け「生物多様性国家戦略」を改定して30年にネイチャーポジティブ(自然再興)達成を目指して取り組んでいる。もう一人の副大臣が取り組んでいる循環経済では、プラスチック汚染対策に対する条約策定に向け政府間で交渉中。来年24年末に作業を完了させることを目指している。
WWD:5月に開かれたG7ではそれらはどのように反映されたのか。
山田: G7広島サミットでは気候変動、循環経済、生物多様性の保全の3つを統合的に対応しようという合意があった。その成果文書では、気候と環境、エネルギー関連が全体の1/4もある。それだけ大事なテーマなのだとつくづく実感している。4月には気候エネルギー環境大臣会合が札幌で開催。成果文章の合意文書の中に、初めて「ファッション」という言葉が出てきた。廃棄物の発生を大幅に削減するため、ファッションを含めたあらゆる部門の持続可能性を促進するという書きぶり。G7をきっかけに、サステナブルファッションが日本から発信できたので、これからの広がりを期待している。
WWD: G7の配偶者プログラムでは岸田裕子総理大臣夫人が日本のデニムのスーツや「CFCL」のブルーのドレスを着用していた。
山田:G7は7年に1度、世界の外交の頂点の舞台に日本がなるエポックメイキングなこと。日本は環境問題に遅れていると思われがちなので、そうではないとアピールする格好の場でもある。ウクライナやエネルギー問題がある中で、環境気候変動が大きなテーマになるとわかっていたので、ビジュアルでも発信していけたらと思った。なんらかの形で日本のファッションを発信したいという考えもあった。岸田夫人が着用したことで実際に「その服はどこの?」と話が広がったようだ。
WWD:ファッションは言葉のいらない対話のツールだ。
山田:そう思う。私自身も札幌環境サミットで「CFCL」の服を着用したところ、西村大臣が挨拶の中で紹介してくださり拍手があがったり、歓談のシーンでみなさんが「触っていい?」と声をかけてくださったりした。各国女性の出席者も増えているので盛り上がる。
ファッションは「デコ活」運動3本柱の1本目
WWD:昨年10月に発表した「新しい国民運動」では、なぜ3本柱の一つにファッションが取り上げられたのか。
山田:ファッションは私たちの暮らしに直接関わること。環境省では20年9月から持続可能なファッションの取り組みをすすめるためにタスクフォースが立ち上がり、ファッションの環境負荷の実態調査や公式ページでの情報発信を行ってきた。また、環境省とファッション関連企業の勉強会をきっかけに21年8月にジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)が設立されている。こういったこれまでの経緯を踏まえて新しい国民運動でもサステナブル・ファッションを取り上げることになった。
その後、国民運動の名前を募集し、7月に決定したのが「デコ活」。8200件の応募から有識者や著名人に審査してもらい、脱炭素を意味するデ・カーボナイゼーション(Decarbonization)とエコを組み合わせた「デコ活」に決めた。これからは、ファッションは「デコ活」運動3本柱の1本目という感じで盛り上げたい。
WWD:具体的にどんなアクションを進める?
山田:環境省の政策として、官民協議会を中心に進める。707社の自治体・企業・団体が集まっている(7月24日時点)。どういう形で国民に発信するか話し合うのがまさにこれからのところだ。
WWD:サステナブルファッションを推進していくうえでの課題、環境省の取組は?
山田:国民の意識を高めることと関連して、環境省では廃棄を減らすことが一つの課題と考えている。そのためには、大量生産・大量消費・大量廃棄ではなく、適量生産・適量購入・循環利用を促進するため製品の設計をする段階から、長寿命、リサイクルしやすい設計、透明性の確保が重要になってくる。現在、経済産業省が運営する「繊維製品における資源循環システム検討会」が動いており、環境省も参加。今後、政府としても繊維製品の環境配慮型設計ガイドラインの策定に取り組む予定だ。
また、環境省はカーボンフットプリントへのモデル事業を実施しており、実践ガイドラインを5月に公表。アパレル企業に参加してもらっている。
WWD:20年に環境省はファッション・繊維関連企業を対象にしたアンケート調査を公表。「廃棄衣料年間51.2万トン」といったデータが、多くの企業・団体が資料に採用されるなど認知が広がった。今年更新した報告書では、4割の企業が「取り組むべき社会課題はない」と回答しているが、こういった声は産業内からはあがりにくい。
山田:今年公開した最新の報告書では、廃棄量の試算が3年前の調査と大きく違った。環境省から企業にアンケートを投げ掛けても、そもそも実行している企業しか答えてくれず「良い数字」が出てしまっていたからだ。省が企業に「絶対に答えてください」とお願いすることも啓発の一つ。その結果、現実があぶり出される意味は大きい。
WWD:「特に取り組むべき社会課題はない」企業が4割。それをどう捉えている?
山田:「課題などない」と反発しているわけではなく、課題が分からない、実感できていない方が大きいのでは。事業者が今悩んでいるのは、原材料高、エネルギー高、人手不足。そんな中で環境問題にも取り組まないと将来的に原材料の供給元から締め出されてしまうが、その深刻さが伝わっていない。それはまるで茹でガエルのようにじわじわくる問題。アンケートも一環だが、事業者の理解を深めたい。
WWD:「今後取り組むべき課題」の回答には、「長く使用できる商品の販売」「環境配慮型製品企画」「再生エネルギーの導入」に続いて、「トレーサビリティーの確保」が上がってきた。
山田:新疆綿のようなシンボリックなニュースがあると、意識が高まるきっかけになる。トレーサビリティーは実際にトラックするのは大変で、衣類はそれ自体が課題だが、まずは意識を持つことが大事。あとは、循環利用をどう促していくか、回収が大きな課題だ。昨年、環境省の「使用済製品等のリユースに関する自治体モデル実証事業」において、京都のリユース事業が銀行などと連携して衣服を回収し、古着屋やイベントで販売した。その成功事例ができたので、今年度は衣類の回収に特化したモデル事業を公募して、4件ほど支援する予定だ。地域の特性に即したモデルを提案できれば、選択肢が提示できる。回収・再利用の実態、繊維リサイクルの技術的課題、コストなどまだ十分に把握できていないので、取り組みながら環境省もビジョンを描いていきたい。
WWD:生活者に向けたメッセージは?
山田:消費者が捨てるのはもったい無いと思っても、回収してもらえる場所があるのか、回収したものをどうリサイクルしていくのかなど全部がつながっていかないとみんなが動けない。全体としてどう回してくかが、大切だ。
また、衣類を長く着るにはクリーニングが大事。大切に手入れをすることで長く着られる。私自身、10年くらい前に買って着なくなっていたコートがあり、クリーニングに出したら新品みたいになって帰ってきて実感している。今実はクリーニング業界と関係省庁が連携してサステナブルファッション啓発ポスターを作成中。組合加盟店で「サステナブルファッションにはクリーニングを」と言った内容が掲出される予定だ。
“私たちの世代は「今さら変えられない感」があるが、若い世代は自然体”
WWD:政治からファッションをどう見ているか?
山田:議員になって11年目。議員になったばかりの頃は、政治の中でファッションが取り上げられることは少なかった。目が肥えている国民性、細やかなことができる作り手がいるのに、後押しする仕組みがないと忸怩たる思いだった。「日本から、利益率の高いラグジュアリーファションを」と考えたこともあるが、なかなかうまくいかず。そして出会ったのがサステナブルファッション。サステナブルという切り口で、日本のファッション産業を振興できないかと今は考える。
イギリスは企業がリサイクル費用を負担するとか、フランスは廃棄したら罰金とか、海外発の実務的な要請がおそらく日本企業にも迫ってくる。それは行政の使命でもあるが、それとは別にファッションが何をもたらしてくれるか、も変わりつつある。サステナブルは「高価、希少性」といったこれまでのラグジュアリーファッションの性質とは別の、新しい考え方だ。ファッションを身につけていることで環境に良いことをしているという満足感、高揚感が得られる。そんなこれからの社会を反映した方向に進めていけたらいい。
WWD:若い世代に何を求める?
山田:常識を覆してほしい。G7でも札幌ドームで若い世代との意見交換の場があり意見がどんどん出てきた。私たちの世代は「今さら変えられない感」「やらされなきゃいけない感」があるが、若い世代は自然体で意見が出る。大人に忖度せずに、現状を前提とせず、ガンガン発言して変えていってほしい。