サステナビリティ

映画「ファッション・リイマジン」 サステナビリティが信念の英国デザイナーが奮闘

エイミー・パウニー/「マザー・オブ・パール」クリエイティブ・ディレクター プロフィール

1985年英国生まれ。10歳の頃から、英国ランカシャーにあるオフグリッド(電気やガスなどのインフラがない状態)の農場で、妹と両親とともに育つ。2002年、キングストン大学に入学しファッション・デザインを専攻。06年、同大学を卒業後「マザー・オブ・パール」にアシスタントとして入社。その後スタジオ・マネージャーに昇進し、15年にクリエイティブ・ディレクターに就任する。17年、「BFC /ヴォーグ デザイナー・ファッション・ファンド(BFC/Vogue Designer Fashion Fund)」を受賞し、その賞金でサステナブルなライン“ノーフリル(NO FRILL)”を立ち上げる。コレクションは、ロンドン・ファッション・ウィークやコペンハーゲン・ファッション・ウィークで発表し、ネッタポルテ、ハロッズ、サックス・フィフス・アベニュー、ニーマン・マーカスなどで販売されている。また、英国最大の百貨店であるジョン・ルイスのサステナブル・コレクションやホームウェアのデザインも手がける。BBC Earthやチャールズ皇太子とサステナブル・プロジェクトでコラボレーションしているほか、英国「ヴォーグ」で「Ask Amy」のコラムを執筆中

ファッションとトレーサビリティーを題材にしたドキュメンタリー映画「ファッション・リイマジン(FASHION REIMAGINE)」が9月22日に日本で公開される。「WWDJAPAN」では.com会員限定のオンライン試写会を来月、実施する予定だ。映画の主役はファッションデザイナーのエイミー・パウニー(Amy Powney)。2015年に英国ブランド「マザー・オブ・パール(MOTHER OF PEARL)」のクリエイティブ・ディレクターに就任した20代のエイミーは、17年に「BFC /ヴォーグ デザイナー・ファッション・ファンド」を受賞。そこで得た10万ボンドを手に、サステナブルな取り組みを徹底し始める。綿やウールの原産地をこの目で見ようと手探りで世界を旅し、生産者と繋がり、独自のサプライチェーンを築こうとするものの業界慣習を前に挫折の連続。両親や同僚の存在を心の支えに奮闘するエミリーの信念はやがて少しずつ実っていく。ファッション好きに限らず、服を着る全ての人が観る価値ある同作についてエミリー自身に聞いた。

WWD:ウールを手に入れるために牧場を訪れ、コットンのために綿花畑まで訪れる。なぜそこまでして、トレーサビリティーにこだわったのでしょうか。

エイミー・パウニー=「マザー・オブ・パール」クリエイティブ・ディレクター(以下、エイミー):例えばセーターに使うウールの最終製品を理解し、責任を持とうとしたらそれがどこから来たのか、つまり羊に始まり、紡績、織物、染色、縫製、輸送など各工程について理解する必要があります。だって各工程を知らずして“これはサステナブルだ”とは言えないですから。私の旅はいわば、すべての工程を明らかにして、サプライチェーンをつなぐ旅。旅の途中では「サプライチェーンの透明性を保ち、もっと緊密にして、より良くするにはどうしたらいいだろう?」とか、「どうやったら複数の国をまたがずに一つの国の中でサプライチェーンを完結させることができるだろうか?」といったことを考えていました。

私にとって、透明性はとても重要です。その服がどこからやってきたのか、消費者が知る手助けをするからです。現代の人はともすればコットンが植物であり、羊が動物であり、ポリエステルが石油由来であること忘れていると思う。透明性が担保されれば「自分たちが何を買っているのか」を考えるきっかけになります。

WWD:ウルグアイの牧場の美しい景色の中で生産者と話し込むシーンがロードムービーのようでした。誰かに託さず、自分の目で現地を見たかったのはなぜ?

エイミー:「Seeing is believing」という言葉がありますが、「トレーサビリティー」は「知識」とも言い換えられると思う。自分の目で見れば、本当に理解することができるし、確認するだけではなく、学ぶこともできます。例えば、ウルグアイではウルグアイ産のオーガニックウールと従来のウールの見た目に大きな「違いがない」ことを学びました。つまり、私たちはプロセスを学ぶことで、より良い決断を下すことができるようになるのです。知ることで他のサプライヤーに適切な質問をすることもできます。

WWD:長くファッション業界に身を置く人でも畑に行ったことがない人は大勢います。

エイミー:私はつい最近、そのことについてトークイベント「TED」で話したばかりです。(映画にも出てくる)ウルグアイで長く羊毛業に携わるペトロ・オテギ=ラナス・トリニダード責任者から「ファッションデザイナーやファッションブランド関係者でここに来たのはあなたが初めてだ」と聞いた時はショックでした。つまり他のデザイナーたちはここで何が起きているのかを知らないということだから。

気候変動について考えるとき、私たちは化石燃料や農業、畜産業について考えますよね。でも実は、ファッションもすべてそれらの場所から生まれており、ファッションやテキスタイルの産業は気候変動に大きく関わっています。そのことを理解すると環境への意識が変わってくるのではないでしょうか。

WWD:ファッションデザイナーの仕事は、デッサンを描くことだけでない。環境への影響を考えることもまた「デザイン」の一部なのですね。

エイミー:その通りです。私は「life centered design(ライフ・センタード・デザイン)」という概念を学びました。これは、「すべての生命を中心」に設計する概念で、製品だけではなくビジネスやサプライ・チェーン全体、スタッフに伝える哲学を含めてデザインをし、生態系や地球環境へのネガティブなインパクトを最小限にしようとする考え方です。できるだけ公正で、持続可能、再生可能であるようにデザインする。それが私の義務だし、他のブランドや企業経営者たちとともに変えていかなければならないことだと思う。

WWD:若い世代に「未来や地球のためを考えるなら新しくデザインせず、何もしないことが最良の方法では?」と問われたらどう答えますか?

エイミー:大切な考え方だと思う。その質問に答えるとしたら「正しいやり方であれば服を作って売ることはこれからもできると思う」でしょうか。私たちは服を着ないと生きられないですよね?気分を良くするために、温かくするために、しっかり働くために服を着ます。私たちは服との関係性を変えなければならないと思う。最近私は「ファッション」より「衣服」という言葉を使うようにしています。流行や速いスピードを意味する「ファッション」ではなく、製品としての衣服、機能美としてのデザインについてよく考えます。

また私は最近「リジェネラティブ」に情熱を注いでいます。例えば、綿花畑から綿花を採取することで土壌の質を向上させることができたとしたら?大地から奪うのではなく、大地を改善するものを作って売ることができたら?これらは私の次なる理想、ジャーニーです。10年以上かかるかもしれないけども。未来と向きあう学生たちは、心を開き、デザインとファッションの概念を変え、システムを再発明できるもっと良い方法見つけられるはず。

「成功とは何か」という哲学を変える必要がある

WWD:映画化したことでブランドの売り上げは伸びましたか?

エイミー:残念ながら、大きな成長とは言えません。英国は今生活コストの上昇で大変な状況にあります。ウエブサイトへのトラフィックはかなり増えましたが、人々は買い物に対して慎重です。私は「必要なものだけを買おう」と言っている立場でもありますし、難しいです。

WWD:ウール、コットに続いてトレーサビリティ-に取り組んでいる素材は?

エイミー:テンセルです。もっとも持続可能な素材の一つだとだと思うから。オーストリアの繊維メーカー、レンチングのアンバサダーを務めており、最近工場で製造工程を学びました。あと、ヴァージンではなく再生繊維をなるべく使っています。再生繊維といってもポリエステルなどの石油系素材でなく、コットンやウールと言った天然繊維を選ぶことに変わりありません。

WWD:欧州ではサステナビリティに関する法規制が施行されていますが、ビジネスにどのような影響がありますか?

エイミー:ビジネスに具体的な影響が出てくるのはこれからで、様子見といったところです。いずれにしても私は良いこと、重要なことだと思う。ニューヨークでも同様の法規制が始まりそうですよね。ファッションビジネスはグローバルであり、サプライチェーンが複数の国にまたがり複雑。今後、グローバルにビジネスを続け、欧州やニューヨークで取引を行うには、それらの法を遵守するためにブランドは変わらなければならない。非常に良いことです。

WWD:ファッション・ビジネスにおいて、持続可能性と企業の利益は両立すると思いますか?

エイミー:スーツを着た多くの男性が反対するでしょうが、私は成功の形そのものを再構築しなければならないと思う。「成功とは何か」という哲学を変える必要がある。私たちは男性によって築かれた世界に生き、利益と損失を成功の尺度としてきました。口にするのは、お金と成長と成功ばかり。変えなければならないのは、成功の「形」。稼いだ利益に加え、二酸化炭素をどれだけ削減できたか、社会的プロジェクトや慈善団体にどれだけ寄付をしたか、リジェネラティブ農業の新たな展開にどれだけ寄与できたか、といったことが成功の意味になっていい。億万長者になる必要はない。1億ドルであれ、1ポンドであれそれで何をするか?が成功の形になると思う。

◾︎『ファッション・リイマジン』
公開:9月22日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
出演:エイミー・パウニー(「マザー・オブ・パール」デザイナー)、クロエ・マークス、ペドロ・オテギ
監督:ベッキー・ハトナー
日本語字幕:古田由紀子
原題:Fashion Reimagined
2022年/イギリス/英語/カラー/ビスタ/100分/
 

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

リーダーたちに聞く「最強のファッション ✕ DX」

「WWDJAPAN」11月18日号の特集は、毎年恒例の「DX特集」です。今回はDXの先進企業&キーパーソンたちに「リテール」「サプライチェーン」「AI」そして「中国」の4つのテーマで迫ります。「シーイン」「TEMU」などメガ越境EC企業の台頭する一方、1992年には世界一だった日本企業の競争力は直近では38位にまで後退。その理由は生産性の低さです。DXは多くの日本企業の経営者にとって待ったなしの課…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。