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特集 トレーサビリティー

Tシャツがたどるサプライチェーン 完成までの40工程を図解【服作りはたどる・見せるが新常識】

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1枚のTシャツがたどるサプライチェーン

サステナビリティの取り組みは、エビデンスを求められるフェーズに入った。「地球に優しい」ではもはや消費者は納得しない。サプライチェーンを透明化し、自社のビジネスがどこにどれだけの負荷をかけているのかに向き合うことで、サステナビリティを実体を持って語ることができるはずだ。生産背景は競合を意識し隠すことが当たり前だった業界の常識を見直す時が来ている。(この記事は「WWDJAPAN」2023年8月7&14日号からの抜粋です)

トレーサビリティーとは、製品の原材料から製品化、消費、廃棄までの全ての工程を追跡することを指す。H&M ヘネス・アンド・マウリッツ・ジャパンの山浦誉史CSRサステナビリティ・コーディネーターは、「海外ではトレーサビリティーがないと、広告がうてない、商品を販売できないレベルまで来ている」と話す。昨年フランスで施行された「循環型経済のための廃棄物対策法」や、下記で解説する「持続可能な製品のためのエコデザイン規制(ESPR)」など、消費者が環境に配慮した消費行動を選択できるよう情報開示を求める法規制が着々と進んでいるからだ。グローバル企業は、喫緊の課題として対応を進める。

カバーストーリー

表紙を飾ったのは1枚のコットンTシャツ。タグは着丈以上に長く、綿花から納品まで生産工程と担当者名が書かれている。これはファッションレボリューションジャパンが今年開催した企画展で展示したもので、「服の生産工程にもっと目を向けよ」とメッセージを投げかける。撮影では人物やミシンなどの型を製作してTシャツに投影し、服作りに関わる工程や人の多さを表現した。

1枚の服が完成するまでの40工程を図解

下記ではまず、ファッションレボリューションジャパンがラナプラザ崩落事故から10年の節目に実施した、タグに服1着の生産工程に関わる全ての工場を記載するというプロジェクトにヒントを得て、サプライチェーンを図解するところから始めた。1着に関わる全ての人々の生活や土地にとってベターな選択を重ねていかないことには、持続可能な業界の理想像は描けない。世界を旅して今目の前にあるその1着の背景を想像し、それぞれの立場で持続可能な未来を想像するきっかけになってほしい。

トレーサビリティーの重要性を
3つの視点で解説

1. 人権デューデリジェンス視点

“コットンとトレーサビリティー、人権を巡る米中対立は、
もはや「海の向こうの話」ではない”

葛西泰介/日本貿易振興機構(JETRO)調査部米州課

原料調達におけるトレーサビリティーの中でも昨今注目度が高いのがコットンだ。米国は2022年にサプライチェーン上で中国の新疆ウイグル自治区と関連がある製品を「強制労働に依拠した製品」として輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法」を施行した。綿やアパレル製品を特に強制労働のリスクが高い品目と位置付けている。

人権を巡る米中対立は、米国や中国とビジネスを行う日本企業にとっては、例えば「日本の製品であっても、原料に新疆で生産された綿を使用していれば、ウイグル強制労働防止法に基づいて米国への輸入が禁止される」などの具体的な影響があるだろう。さらに、米国や中国と必ずしも直接的な関係を持たない日本企業にとっても「海の向こうの話」とは言えなくなってきているのではないだろうか。企業による国際的な人権保護の取り組みなどを意味する「人権デューデリジェンス」という言葉を聞く機会が増えているが、そのような対応は企業活動において必須項目となりつつある。例えば、強制労働産品の輸入を禁止する動きは、世界の主要国でトレンドになりつつある。既に米国、英国、ドイツ、カナダなどのG7各国をはじめ、米国との貿易関係が深いメキシコでも強制労働によって生産された製品の輸入を禁止する国内法が整備されている。日本においても、22年9月に、経済産業省が「人権尊重のためのガイドライン」を発表した。23年1月には、日米両政府が人権関連の法制度や執行実務などについて情報共有を行う「人権タスクフォース」の設置を発表した。さらに23年5月には、与野党議員団が人権デューデリジェンスを義務付ける法律の制定を政府に提言した、との報道もある。これらの人権を巡る動きに対応していくためにも、原料のトレーサビリティーが取れていることは今後グローバルにビジネスを進める上でますます重要になっていくだろう。

2. CO2削減視点

“環境影響を把握するために
トレーサビリティーは欠かせない”

津田和俊/京都工芸繊維大学 デザイン・建築学系講師
山口情報技術センター専門委員(主任研究員)

近年、トレーサビリティーは、安全性や品質管理のためだけでなく、環境の観点からも重要となってきている。CO2排出量の削減をアパレル企業が進めるためにも、その重要性は増している。製品やサービスのライフサイクル全体を通じた環境への影響を評価する手法として、ライフサイクルアセスメント(LCA)がある。衣服におけるライフサイクルとは、例えば、繊維などの原料の採取から、紡績、機織、編立、染色、裁断、縫製、流通、使用、循環利用、廃棄までを含む。LCAを実施することで、そのライフサイクルのどの段階で、どのような環境影響(気候変動、水質汚染、生物多様性への影響など)があるかを把握し、削減するための代替案を検討し、また、それらの情報を社会に公開することが可能となる。そのためにも、グローバルで複雑なサプライチェーンの可視化や透明性を推進するトレーサビリティーは重要な手段として期待されている。

3. 法規制視点

厳しくなる法規制。
中でも「ESPR」と「デジタル製品パスポート」がポイントに

購入した製品を修理したいが方法が分からない、そんな不満を抱いたことは誰しもあるだろう。今後は、こういった消費者の「修理する権利」が拡大し、企業はその要望に応えることが求められる。循環型経済の実現を目指して厳しくなる欧州の法規制の中でも、トレーサビリティーと深く関わるのが「持続可能な製品のためのエコデザイン規制(ESPR)」である。今年5月にEU理事会が合意を発表し、繊維製品もその対象となる。これは製品の耐久性、リユース、修理、リサイクルの可能性、長寿命性といった“エコデザイン要件”を設定する枠組みを規定したもの。さらに、エコデザイン要件などの情報を「デジタル製品パスポート(DPP)」を通じて消費者へ情報提供することを義務付ける。「この服を修理したい」と消費者が思った際に必要となる素材や技術の情報を、企業が最初から提供することが求められるというわけだ。つまりトレーサビリティーが取れていることは大前提。動向に注目だ。

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