服はある意味"普通"。「アンダーカバー(UNDERCOVER)」が得意とするスポーティでボーイッシュなアイテムが揃い奇抜さはない。幅広く折り返したセンタープレスのダボダボのパンツとジャケットのセットアップ、スキニーなパンツにAラインのコート。スタジャンやライダース、トレンチコートや中綿ジャケットといった基本アイテムは丈を長くして素足でミニドレスのように着こなす。柄は英国を連想するチェックに加え、高橋盾が大好きな蜘蛛柄もたくさん登場した。
これまでと異なるのは、それらのアイテムのどこかしらに穴が開き、共布や別素材の細長いスカーフを通している点だ。スカーフは「UNDERCOVER」と描かれたニットや、ファー、勲章のリボンのようなストライプのサテン生地などさまざまな種類がある。スカーフを抜き取れば、"普通"で、スカーフを差し込み身体に巻きつけることでメッセージ性が加わる。
髪の毛の王冠をのせたモデルの目が血走っているように見えるのは、赤いカラーコンタクトレンズと赤いマスカラのため。真っ赤な照明の中、静かに歩くモデルを見ていると少し寂しい気持ちになり、スカーフは女王を縛る拘束のようにも見えてくる。後半の白地に青のプリントはよく見れば草原に着陸したUFOが描かれていて意味深だ。最後のシーンでモデルが両手で大切に持っているのは、リンゴ型の照明"ギラップル"。フィナーレには深々と雪が降り積もりその寂しさを助長する。
服自体で新しさを伝えるのは容易ではない時代。何のためのファッションショーなのか?はショーを続けるデザイナーが度々ぶつかる疑問だ。今回のショーを通じて、高橋盾は服を通じて物語を伝える、ストーリーテラーとしての力を発揮した。「冷たさと温かさ、その両面を表現したかった」というメッセージは観る者にしっかりと伝わった。