ロドリゲスは、「このフレグランスを作ることは私の夢だった。キャリアの中でも最大のハイライトの一つ」とコメントしている。彼の好きなムスクを中心とした香りで、オードトワレ、オードパルファムの他、さまざまなバリエーションがある。誕生20周年を記念して、新作の“フォーハー フォーエバー”が登場。ベストセラーである、オードトワレとオードパルファムのシプレーフローラルを発展させた香りだ。
“フォーハー”が誕生したきっかけ
ロドリゲスがフレグランスをつくるきっかけになったのは、ある女性。当時彼が働いていた「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」のVIP顧客向けの広報だった故キャロリン・べセット・ケネディ(Caroline Besette Kennedy)だ。彼女とロドリゲスは友人同士で、彼は「彼女は素晴らしいスタイルの持ち主で私の人生で最も大切な人だった」と語っている。ケネディといえば、1990年代のファッションアイコン。彼女の洗練されたミニマルなスタイルは今でも、多くのデザイナーのインスピレーション源になっている。
彼女は、96年ジョン・フィッツェラルド・ケネディ・ジュニア(John Fitzgerald Kennedy Jr.)との結婚式で着用するウエディングドレスのデザインをまだ無名だったロドリゲスに依頼。シンプルなドレスに身を包んだ彼女の姿はあらゆるメディアで取り上げられた。そのドレスで脚光を浴びたロドリゲスは自身のファッションブランドを設立。正にケネディは彼のミューズだったのだ。
モダンでミステリアス、まとう人に合わせて変わる香り
ロドリゲスがフレグランスの核として選んだ香りはムスクだ。99年に飛行機事故で他界したケネディが常に着けていた香りは、“エジプシャン・ムスク”だった。ロドリゲスは、「ムスクは変幻自在で、身に着ける人の本質を反映する不思議な力を持っている。香りをまとう女性一人一人に合わせるように置き換わる」と言う。ムスクのハートノートにキンモクセイやアンバーが加わったフレグランスは、ムスク特有の官能的なムードを漂わせながらも、モダンでミステリアスな印象だ。
“フォーハー”の調香は、クリスティーナ・ナジェル(Christine Nagel)とフランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)が担当。2人共、調香界のスーパースターと呼ばれる存在で、ナジェルは2016年に「エルメス(HERMES)」の専属調香師に、クルジャンは21年に「ディオール(DIOR)」の香水ディレクターに就任している。
ロドリゲスの美学が凝縮されたフレグランス
フレグランスはファッションデザイナーであれば、誰もが参入したいカテゴリー。フレグランスビジネスは大手メーカーとのライセンスが主流で、香水がヒットすれば安定した収入源になるからだ。空港の免税店にあるおびただしい数の香水を見れば分かるはず。ロドリゲスは、「フレグランスをつくってくれる人を探して、最後に自分の名前を入れればいいなんて思っていなかった。“フォーハー”は、私が制作したドレスやシューズ同様、作品の一つだ」と述べる。彼は、香りの調香はもちろんのこと、ボトルにもこだわった。20代の頃から旅したアジアで集め続けてきた嗅ぎタバコを入れる容器である鼻煙壺(びえんこ)からヒントを得てデザイン。内側が黒く塗られたその壺をモチーフにしたボトルは、透明のボトルの中に黒いボトルが浮かんでいるかのように見える。また、黒いボトルはメンズ用という当時の概念を覆すものになった。ロドリゲスは、「純粋で美しいオブジェだが、中身は見えない。フレグランスと同様に二面性を持っている」と話す。
ミューズであったケネディが着けていたムスク、それを発展させた“フォーハー”は、他の香りとは異なり肌の上で個性を発揮する。ロドリゲスの体験や美学が凝縮された“フォーハー”には、デザイナーズフレグランスの一括りでは表せないストーリーと思いが込められている。彼は、「女性は、自分の香りに自信を重ね、それが人格や生活の一部となる」と語っている。