「WWD-NY」によると、バックステージでミウッチャは、「欲しいモノはリアルなモノ。今はクレイジーな時代じゃない。コンサバこそが、一番新しい」と話したという。その言葉通り、コレクションは徹底的にシンプル。2ボタンのジャケットで構成するフォーマルも、Gジャンのようなワークウエアで作るカジュアルも70年代のスタイルがベース。デニムとキットモヘアで表現した。シルエットもひねりのないシンプルなもの。唯一目を引くデザインは、コントラストカラーで加えたステッチワークだ。
ところが、このディテールをしっかり見ていくと、もちろん多くのステッチは裾やラペル、ポケットのフラップなどをトリミングしているが、いくつかのステッチはデザインが存在しないところを走っている。いわば、ステッチを加えることでポケットがあるように見せているトロンプルイユ(だまし絵)だ。いくつかのデニムパンツは、バックポケットに沿ってステッチが走っているように見せているが、本当はお尻にポケットは存在しない。ディテールで見た目と、実際の洋服の構造の違いを楽しませているようだ。
コレクションにトロンプルイユというアイデアが流れていることを知ると、今度はディテール以外にもう一つ、見た目と実際の構造が異なっていることに気付く。素材だ。おそらくいくつかの素材は、レザーに似せたゴムやネオプレンのようなものだったり、デニムに似せたウール地だったり、その反対だったり。ワークジャケットをウール地で生み出すなど、通常とは異なる使い方も散見された。最終的な見た目は極めて普通だが、そこに素材、そしてディテールという2層において普通という概念を裏切ったコレクションなのかもしれない。