「テンセル™(TENCEL™)」がコットンの代替素材として注目を集めている。「テンセル™」がトレーサブル(追跡可能)で低環境負荷素材であることはよく知られているが、コットンの代替素材としての需要が高まり、特にデニムでの採用が増えているという。近年の動向を「テンセル™」を提供するオーストリアのセルロース繊維最大手レンチング・グループ(LENZING GROUP)のグローバルビジネス開発デニム部門長のトゥンチャイ・クルチカン(Tuncay Kılıçkan)に話を聞いた。
インディゴに染められる
“長寿命”繊維
デニムといえばコットンという時代は終わりを告げようとしている。「コットンは常にデニム業界で圧倒的な強さを誇っていたが、近年の持続可能性への意識の高まりや、新型コロナウイルスの感染拡大以降の綿花価格の変動に伴い、綿花に代わる素材を持つことが検討されるようになった」とトゥンチャイ・クルチカン=レンチング・グループ グローバルビジネス開発部門デニム責任者は語る。代替素材の候補の一つとして挙がるのが「テンセル™」だ。支持される理由をクルチカンは「価格と供給条件が安定している点に加え、最終衣料製品での鑑別が可能な100%トレーサブルである点」と分析する。中でもデニム分野での活用が広がっていることについては、「多くの繊維はインディゴ染めができないが、『テンセル™』はインディゴに染めることができる数少ない繊維のひとつ」と語る。
ソフトな手触りも支持を集める理由だ。「今日の消費者は着心地に非常に敏感だ。ビンテージデニムにインスパイアされたオーセンティックなアイテムであっても、ソフトな手触りは必須。『テンセル™』はこの付加価値を提供でき、バリューチェーン全体がそれを認識している。もうひとつ強調しておきたいのは、『テンセル™』は繊維強度が高い点。“長寿命”が今後のEUの法制の重要な要素になることを考えると、製品のライフサイクルが長くなることは、付加的な特徴となるだろう。柔らかさと長寿命を兼ね備える『テンセル™』はデニム、アウター、ニットなどさまざまなアイテムに適していると言える」。
デニムブランド「デンハム(DENHAM)」は“同じジーンズでもよりグリーンに”をコンセプトに、コットンに比べて環境負荷が低いジーンズを探求するライン“ゼロ コットン デニム(Zero Cotton Denim)"に「テンセル™」を採用した。「『デンハム』はプレミアムな価値はそのままに、代替素材の開発に重点を置いている。この取り組みはブランドに前向きな変化を起こすというメッセージが込められている。そして、さまざまなブランドが『テンセル™』のサステナブルな点だけではなく、生地の風合いや新たなテクスチャーを評価して、積極的に採用している」と自信をのぞかせる。「リーバイス(LEVI'S)」もコットン古着を原料の一部に活用した「テンセル™」を循環する繊維として注目している。
ナノ・ユニバースは
“清涼感と品の良さ”推しの
デニムアイテムを提案
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ナノ・ユニバースは2023年春夏向けに「テンセル™デニムが叶える上品で、快適な夏」と題したアイテムを提案した。糸の光沢感を生かしたブラウスやロングフレアスカート、Vネックワンピースといった清涼感ある軽やかなアイテムをそろえた。「テンセル™」を採用した理由をTSIストリート&カルチャー事業ディビジョンNU事業部コンテンツ開発セクションの山内良太プレスは「良質でありながら環境に配慮されていることはもちろん、通常のインディゴデニムとは異なり、色落ちしない点や柔らかい素材感に優位性を感じた」と振り返る。特に人気を集めたのはワンピースだった。「夏でも快適に着用できることや他のアイテムとレイヤードしたときに色移りなどがなく着やすいという反応が多かった」と語る。今後も「テンセル™」を活用していくという。「時期をずらしてトップスやボトムスを提案していきたい」。
「ラ・エフ」
ゼロ・カーボン テンセル™️
大人の女性が取り入れやすい
アイテムとして発信
ジャヴァコーポレーションは8月23日~9月3日、「ラブ・フェスタ」と題して“服のチカラで明日の世界を変えよう #もっと洋服にできること”をテーマに、「地球環境問題やフェアトレード問題に取り組む」アイテムを展開した。「ラブ・フェスタ」は新たに始める取り組みで、「私たちの服づくりの原点である『愛』ある物づくりへの理念や思い入れ、こだわりや価値観を再考し、単なる『物としての価値』だけではない、『新しい価値観や感動』を伴った物づくりを目指す」試みだという。
このプロジェクトではモリリンが提供するゼロカーボンタイプの「テンセル™」を用いた環境配慮型素材”ビオグレース(BIOGRACE)”を採用。「ロートレアモン」「ラ・エフ」「メイソングレー」「ドロワット」「ビアッジョブルー」の5ブランドでニットやカットソーなどを展開した。また、同素材を使用した、今年100周年を迎えるディズニーキャラクターのTシャツも提案した。この生地を採用した理由をジャヴァコーポレーションの仲谷久悟ラ・エフ チーフMDは、「地球温暖化を抑制したいという思いから開発された素材である点。加えて『テンセル™』の持つ滑らかなタッチや柔らかな風合いと心地よさ、カジュアルにならない光沢感が、環境に配慮しながらも高級感があり、大人の女性のスタイルに取り入れやすいところが魅力」だと話す。さらに“ビオグレース”は木と暮らす未来プロジェクトへの寄付を通じて植林・育林活動を行っているという。
デニムの有力メーカーをはじめ、日本でも「テンセル™」をコットン代替素材としてデニムやニット・カットソーへの活用が広がり始めている。現在、繊維における再生セルロース繊維のシェアは6%だが、近い将来さらに伸びることが予測されている。レンチング・グループもそれに対応して投資を行い、タイの工場ではテンセルリヨセル繊維の生産を開始し、ブラジルでもパルプ設備が稼働を始めている。
レンチングファイバーズ