WhereよりHowを
重視するマイクロツーリズム
マイクロツーリズムは、コロナ禍に星野リゾートの星野佳路代表が提唱した、自宅から1、2時間の近場を観光する旅のスタイルだ。移動時間や費用を抑えた観光地を選び、今まで知らなかった地元の魅力を再発見し、充実した時間を過ごす——。観光業界にとっても、繰り返し訪れるファンを作ることで、安定したマーケットを築けるメリットもある。東京在住ならば、隣接した神奈川や埼玉、千葉などは、マイクロツーリズムに最適な地だ。自然に恵まれた環境も実は多く、リピートしたくなるような魅力的なスポットもたくさんある。
家族だけで過ごせる一棟貸しのコテージやオートキャンプ場、グランピング施設など、“仲間だけで過ごせる宿”も好調だ。どこへ行って何を見るかという目的地(Where)よりも、誰と、何を体験して、どう過ごすか(How)を優先することが、これからのマイクロツーリズムのテーマとなるだろう。
地形や自然環境を生かした
グルメやアクティビティが魅力
そんな中、千葉県の企画力が際立っている。もともと千葉県はフラットな大地の都市部、三方を海に囲まれた房総半島、山岳地の南部など自然環境も豊か。また、海底では3つのプレートがぶつかり合い、さまざまな形状の地層が露出するなど、絶景スポットが多い県でもある。海の幸、山の幸、大地の幸など食材にも恵まれ、農業産出額では全国6位(農林水産省『令和3年農業産出額」のデータより)。銚子港は12年連続で全国1位の水揚げ量を誇るなど、グルメも充実しており、観光に必要なコンテンツが満載なのだ。
自然を満喫するなら、やはりキャンプ。千葉には手ぶらでキャンプが可能なグランピング施設も多い。しかも、もともとの施設の魅力を生かしたユニークなキャンプ場ばかり。牧場内に立地し、乳しぼりやバター作りも体験できる「マザー牧場グランピング」や、畑で収穫体験ができる農園内の「ザファーム(THE FARM)」、動物園に隣接し、キリンと共に朝ご飯を食べられるプランもある「ザ・バンブーフォレスト(The BambooForest)」などさまざまだ。
稲毛海浜公園内の「スモールプラネット キャンプ&グリル(small planet CAMP&GRILL)」は、サステナブルがテーマの洗練されたグランピング施設だ。地産地消ならぬ、“千産千消”を学ぶべく、森の中のダイニングでは千葉産の食材を味わう。体験型リゾート「リソルの森」には、オリンピックメダリストなど、数々のトップアスリートが集まる約6万平方メートルの敷地のMTC(メディカルトレーニングセンター)がある。施設内のグランピング施設「グランヴォー スパ ヴィレッジ(Grandvaux Spa Village)」では、そのMTCを利用でき、さまざまなスポーツを体験できる。
ユニークなローカル電車や
観光列車でさらに楽しい滞在に
千葉県には、いすみ鉄道や小湊鉄道、銚子電鉄など、東京に隣接した県とは思えないローカル電車が走っているのも特長だ。15万円から車両を貸し切れるため、結婚式や同窓会などイベントに活用する人も多いそう。
JR東日本でもさまざまな観光列車を運行している。2023年7月には、久留里の酒蔵とのコラボレーション「奥房総角打ち列車」を実施した。木更津から久留里までの片道運賃と5つの蔵の地酒の試飲、おつまみ、おみやげなどが含まれて5800円。到着後は久留里の酒ミュージアムで有料試飲や買い物を楽しめる。3蔵12種類の地酒をふるまう「BOSO地酒バルトレイン」も上総一ノ宮と館山間、佐倉と佐原間などで運行した。
18年から運行しているサイクリストを応援する観光列車「B.B.BASE」も好評だ。自転車を解体せず、サイクルラックに乗せて一緒に乗車できるのがうれしい。6両編成の車両99座席は、すぐに満席になるという。週末の運行は内房コース、外房コースなど日程によって異なり、当然サイクリングコースも変わる。中には全てのルートを制覇した猛者もいるとか。地元との連動で、千葉を巡る楽しさを発信するのに一役買っている。
リバーサイドに滞在して
サップやサーフィンを満喫
いすみ市岬町に7月28日にオープンしたばかりのプライベートヴィラ「バイ ザ リバー イスミ(by the river Isumi)」は、一棟建てのコテージ。目の前には夷隅川がゆったりと流れ、デッキから川にアクセスも可能だ。海もすぐそばなので、釣りやサーフィンも気軽に楽しめる。
リバーサイドの広大なデッキで夕陽を眺め、BBQをするなどゆったりと過ごせる。機能的でスタイリッシュなキッチンがあるので、地元の食材で調理したり、地元の名店メニューをテイクアウトしたりしてみるのもいいだろう。川を眺めながらのアウトドアサウナも格別だ。薪ストーブを囲むリビングなど、インテリアも洗練され、心地のいいカフェやショップに滞在しているような気分になる。
それもそのはず。手掛けたのは、サーフカルチャーを日本に広めたサーフショップ「テッド サーフ(TED SURF)」を運営するサーフユナイテッド。阿出川潤オーナーの自宅もすぐそばにあり、「サーフィンをはじめ、サップ、カイトサーフィン、フォイルサーフィンなどのアクティビティーをサポートしたい」と語る。パタゴニア(Patagonia)社のサーフアンバサダーとしても活動する阿出川オーナーは、いわばオーシャンライフのコンシェルジェのような、心強い存在だ。宿泊者はオプションとしてサップやサーフィンのスクール、電動サーフィン(E-FOIL)レッスンが受けられ、オーナー自らがガイドする。まさに、サーフカルチャーの今を体感できる拠点でもあるのだ。
豊かな自然に囲まれた同ヴィラは、都内から1時間弱のロケーション。サーフスポットまで車で10分、JR外房線の太東駅からもすぐで、電車でのアクセスも可能だ。移動時間と交通費をセーブして、ロケーションを生かした体験を満喫する。そんなマイクロツーリズムがこの夏は支持されそうだ。