昨年の米ビューティ業界は、コロナ後のインフレや景気後退の懸念をものともせず飛躍を遂げた。大手化粧品小売りのアルタビューティ(ULTA BEAUTY)は33年の歴史で初めて年間売上高が100億ドル(約1兆4100億円)を超え、NY発のプチプラコスメブランドを展開するE.L.F.ビューティ(E.L.F.ビューティ)はファッション&ビューティ業界で最も好調な銘柄に選ばれた。化粧品メーカーのコティ(COTY)はフレグランス事業が活況を呈し、フレグランスメーカーのインターパルファム(INTERPARFUMS)は売上高10億ドル(約1410億円)の大台を突破した。
しかし今年、米ビューティ業界最大手2社であるエスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES、以下ELC)とアルタビューティ(ULTA BEAUTY)の業績に陰りが見られる。昨年「トム フォード(TOM FORD)」を買収したELCは、同社の売り上げを支えるアジア、特に中国・海南島と韓国のトラベルリテールの回復が予想より遅れていることから、5月に2023年通期の売上高と最終利益の見通しを再び下方修正し、同社の株価は約18%下落した。アルタビューティの23年第1四半期の決算は、大量の商品を万引きする組織的犯罪を原因の一つとする、棚卸減耗損が営業利益率を圧迫し、急成長していた業績の鈍化が明らかになった。
アナリストらは、2社の状況は全く異なり、それぞれが直面しているのは個別の問題だと強調する。投資銀行TDコーエン(TD COWEN)のオリバー・チェン(Oliver Chen)=シニア株式調査アナリストは、「ELCがプレステージブランドのグローバルカンパニーであるのに対し、アルタビューティはほぼ100%国内で展開する小売企業だ」と語り、今後の見通しも異なるようだ。「アルタビューティは今後も安定的な経営が続くだろうが、高いプロモーションコストや在庫縮小といった注視すべき要素もある。持続的な成長と利益率が明確になるまでは株価は不安定になるだろう」と述べた。
また投資銀行レイモンド・ジェームス(RAYMOND JAMES)のオリビア・トン(Olivia Tong)=アナリストはELCについて、「22年度の売上高の27%をトラベルリテール事業が占めており、どう対処するかの戦略が不透明なことから、短期的な収益の変動が続く可能性が高い」と懸念する。
他業界では米国の景気後退懸念は弱まりつつあるようだが、ビューティ業界においては昨年の目を見張る成長スピードがいくらか緩やかになるとアナリストらは予想している。しかし、成長鈍化は予想されるものの、大手2社の業績はビューティ業界全体が大きく失速する兆候ではないという。コンサルティング会社のグローバルデータ(GLOBALDATA)は、世界のヘルス&ビューティ市場の成長率は今年が5.5%、24年は2.7%、25年は4.9%、26年は4.4%、27 年は4.7%と予測している。米国については、今年が5.5%、24年は1.4%、25年は3%、26年は2.2%、27年は2.5%の成長率を見込んでいる。
グローバルデータのタッシュ・ヴァン・ボクセル(Tash Van Boxel)=リテールアナリストも、「ビューティ市場は強い需要に支えられ成長している」とし、「昨年までの勢いは減速する可能性が高いが、ビューティ市場が衰退するわけではない。特にプレステージフレグランスカテゴリーの成長率は非常に高く、プレステージヘアケアカテゴリーも拡大している。メイクアップを始める年齢も世界で若年化が進み、1人あたりの使用アイテムも増加している。人々は経済状況に関わらずスキンケアやヘアケア商品を欠かさず購入している」と市場拡大への認識を示している。
際立った業績を示す例もある。「エルフ コスメティクス」の23年1〜3月の売上高は前年同期比78%増の1億8740万ドル(約264億円)を記録し、17四半期連続の増収を達成した。