ファッション業界のご意見板であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。洗練されたデザインと高い機能性を武器に右肩上がりの成長を遂げてきたアウトドア用品大手、スノーピークが壁にぶち当たっている。コロナ禍の特需にわいていたキャンプ用品市場が減速に転じ、在庫のダブつきが目立つようになった。昨年からこの問題を指摘してきた小島氏が詳しく分析する。
スノーピークの2023年12月期業績予想の大幅下方修正でキャンピングブームのピークアウトが露呈したが、コロナが明けての日常の復活でアウトドアとアスレジャーも失速するのだろうか。
スノーピークの失速は予見されていた
スノーピークは8月10日、2023年12月期連結の予想売上高を2月発表の360億円から278億5000万円(22.6%減)、営業利益を同50億円から10億9100万円(78.2%減)、純利益を同28億4900万円から6億1500万円(78.4%減)と大幅下方修正した。
同日発表した23年4~6月期業績も、売上高が前年同期比22.7%減の66億6000万円、粗利益率が前年同期の58.4%から56.6%に1.8ポイント低下した一方で販管費率は同39.%%から53.0%に13.5ポイントも跳ね上がり、営業利益は同16億2300万円から2億4100万円と85.1%減少。営業利益率は同18.9%から3.6%に急落し、純利益率も同12.4%から3.5%に落ち込んだ。
韓国・中国の売上高は13.6%減、台湾は13.8%減に踏みとどまったが、米国は27.1%減、日本は28.9%減と大きく減少し、国内では在庫が積み上がったディラー卸が同4分の1(23.0%)と壊滅的に落ち込み、インストア(卸のインショップ)も4分の3に落ち込んだ。ブームがピークアウトしたキャンピング用品が失速し、アウトドアの売り上げは7掛けに落ち込んだ。販管費では売り上げの低下に伴う地代家賃の9.1%増に加えて販売促進費の56.0%増が際立ったが、それほど流通在庫の消化に注力せざるを得なかったと思われる。
その兆候は既に前中間期(22年1〜6月期)業績に現れており、22年9月30日に掲載した小島健輔リポート「社長電撃辞任 『スノーピーク』の本業に死角はないのか」で予見した通りになった。22年12月期上半期の急激な在庫の積み上がり(売上高は34.5%増なのに製品在庫は2.56倍)という異変はコロナ下で過熱したキャンピングブームのピークアウトに直撃されたもので、創業社長が復帰しての立て直しも急激な冷え込みに追いつかなかった。前社長(創業者の実娘)の「既婚男性との交際及び妊娠による辞任」という異例な公式発表も、振り返って見れば世間の関心をスキャンダルに引きつけておきたいという目眩しだったのだろうか。
それから1年経った今中間期の業績は売上高も利益も急減して在庫はさらに積み上がるという危機的なもので、在庫は2.56倍に急増した前中間期からさらに85.6%も増加した。棚資産回転は前中間期の133.0日から295.1日と10カ月に迫り、売掛債権回転(47.1日→34.1日)を短縮しても買掛債務回転(38.1日→23.8日)も短縮したからCCCは142.0日から305.4日と危機的に長期化し、運転資金が1.8倍にかさんで純資産対比も83.1%から131.9%と危険水域に跳ね上がっている。
その急激な暗転ぶりはスキーブームの終焉による1998年のゴールドウインの失速に重なって見える。今をときめくゴールドウインも当時は流通在庫が積み上がって98年3月期は営業赤字に転落し、翌期と合わせて96億円もの最終損失を計上している。ゴールドウインが失速前の売上規模(96年3月期の779億円)を回復したのはアウトドアがブーム化した2019年3月期(849億円)で、実に20年以上を要している。スノーピークがこの危機を乗り越えて売上規模を回復するのは、いったいいつになるのだろうか。
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