この素材で、“360度プリーツ”よりもなめらかに、そして女性の体のラインにフィットするウエアを実現した。ファーストルックの白いふわふわしたシルエットのドレスは、プリーツのように直線的ではなく、360度プリーツのようにダイナミックな曲線でもない。モデルの体をやさしく包む雲のようだ。白から始まったコレクションはベージュ、ミントグリーン、レモンイエローと色を変え、スクエアの凹凸の大きさも変えて、ニット素材のトップス、ショートパンツ、ジャケット、ストールなど、さまざまなアイテムを提案。布帛のドレスやボトムスなどと合わせることで、コーディネートの幅を示した。
「素材をふわっと縮めて、体に雲をまとうイメージを体現したかった」とデザイナーの宮前義之はバックステージのインタビューでこう答える。「雲や風など、軽やかなものをまとう感じ。理屈じゃなくてそういう気分。僕たちの仕事を軽やかに見せたいという思いもあった。だから、素材をわかりやすく説明するビデオも今回は制作した」。3Dスチームストレッチの開発は「女性の体に沿う素材をつくりたい」という宮前の思いからスタートした。その結果、ニットでもプリーツでもないストレッチ素材の開発に成功した。「この開発には3年以上かかっているけれど、ようやく自分たちのスタンダードな素材ができそうだ。前回は線のアプローチだったけれど、面で何かできないかと考え始めた。開発が思ったよりも早く進んだので、半年でできるかどうか確証がなかったが、今シーズンに向けて、つっ走ってきた。なかなか思ったように素材が縮まなくて、織る順番をいろいろ試し、何度もやり直した。見た目はダイナミックなフォルムではないが、ダーツもとらないし、縫うところも1ヵ所しかない。本当に新しい素材」。帽子が印象的なコレクションだったが、「頭の上に風をはらむというイメージ。軽さをより表現するためにも帽子は必要だった。シューズもシンプルだけど、履くとスニーカーのように心地よい」。
前シーズンの評価が高かったため、今季はさらに大きなプレッシャーがかかっていたはずだが、それを力に変え、前作を超える革新的なコレクションだった。