ファーストルックは、布でできた赤いバラと無数のテープの服。ベースは、シンプルな黒の3つボタンのコートだが、外側からは全く見えない。コートがバラをまとい、バラの刺を受けて鮮血を流しているようだ。赤は一色ではなく、濃淡複数の赤を組み合わせている。
赤の造形の手法は一ルックずつ異なる。セカンドルックはフェイクレザーを使用。ワンピースをベースに赤いフェイクレザーのコートを数着重ね着し、コートを切り裂き、造形している。ほかにも、大小8つのフェイクレザーの輪を安全ピンでつないだり、赤いベルトを大量につなぎ合わせたり、赤と黒の絵の具をたたきつけたようなフェイクレザーで造形したり。“カワイイ”とはほど遠い服はモダンアートの領域だ。
しかし、ショーの翌日にショールームに行き、コレクションのルックと同タイミングで並ぶコマーシャルラインを見ると、「コム デ ギャルソン」の服はアートではなく、あくまでプレタポルテであること再確認する。真っ赤な“ローゼズ&ブラッド”のイメージを守りつつ、リアルクローズとしてのTシャツやワンピースが並んでいるからだ。ファーストルックの布のバラとテープも、Tシャツに数個ついている程度だと、“カワイ”く見える。黒いバラとテープを飾ったドレスはグロテスクどころか、テープが揺れてエレガントだ。
プレ・コレクションを発表していない、「コム デ ギャルソン」のビジネスのメインはこのコマーシャルラインであり、店頭で顧客が触れる商品の多くも同ラインとなる(コレクションラインも販売はされる)。アナーキーと“カワイイ”。その両方を同タイミングで提案する仕組み自体を作り上げているところが「コム デ ギャルソン」というブランドの強みだろう。ショーを見に来る人たちもそのことを知っているから、ショーには強さとアート性を求め、リアルクローズ全盛時代の今であっても“着られない”服に賞賛の拍手を送る。