ベイクルーズ出身の森秀人がこのほど独立し、ブランドコンサルティング会社のフェーヴ(FEVE)を立ち上げた。前職では、40歳で取締役に就任しファッション、フード、フィットネス、インテリアなどの多岐にわたる領域で、70以上のブランドディレクションを手掛けた。そこで培った知見を武器に「時流を捉えたクリエイティブソリューションを包括的に提案していく」という。森に立ち上げ経緯を聞いた。
森秀人/フェーヴCEO兼クリエイティブ・プロデューサー プロフィール
(もり・ひでと)1975年埼玉県生まれ。2001年にベイクルーズに入社。「エディフィス」の販売員からスタートし、VMDを経てクリエイティブ部門のトップに就任。10年に執行役員に。15年からは取締役兼チーフクリエイティブオフィサーとして、ファッション・インテリア・フード・フィットネスでロゴデザインや内装デザイン、VMD、ディスプレーデザイン、空間演出など、全クリエイティブ領域において70ブランド以上をディレクションした。22年10月に独立し、23年5月にフェーヴを設立。高感度な消費者層に向けた事業会社に対し、時流を捉えたクリエイティブソリューションを提供するブランド・コンサルティング・サービスを8月から開始
WWD:立ち上げの背景は?
森秀人フェーヴCEO兼クリエイティブ・プロデューサー(以下、森):「エディフィス(EDIFICE)」に憧れて2001年にベイクルーズに入社してから、ほぼ全ブランドのクリエイティブ全般にまつわるディレクションを任せてもらい、さまざまな領域で経験を積ませてもらいました。その中で、20年で一区切りつけようというビジョンをぼんやりと描いていました。20年たち、ある程度の達成感も得ることができ独立を決めました。
WWD:フェーヴとはどんな会社?
森:経営層がモヤモヤしている内容を言語化する仕事から、具体的な店作りや商品作り、SNS運用などの枝葉の業務まで全てを請け負います。「コンサルティングファーム」と名乗っていますが、僕がやりたいのは「何でも屋」。20年間、小売りの現場にいた経験を基に、クライアントの事業成長をお手伝いします。
WWD:強みは?
森:圧倒的な現場主義です。ベイクルーズの窪田(祐)会長には、何をするにも現場に行って、顧客視点を持つことをたたき込まれました。店作りも事業運営も、とにかく店に行って考えろと。そして、常にもっと何かできるかもしれないと批判の目を持つこと。前職では、毎シーズン修正を加えて、サグラダファミリアと呼ばれていた店もありましたね。でも、あえて「完成」を決めない意義も前職で学んだ大事なことです。
1ミリにこだわるディレクションで個性を引き出す
WWD:前職では70以上のブランドのディレクションを手掛けた。それぞれのブランドの個性を引き出すコツは?
森:ベイクルーズは狭いターゲット層の中で、あれだけのブランドを両立させている結構異質な事例だと思います。ディレクションする際はいつも、1ミリずれたら違うブランドだという感覚で、その1ミリにこだわってブランド同士をチューニングする作業を長年やってきました。例えば、同じフレンチシックがテーマの「イエナ(IENA)」と「スローブ イエナ(SLOBE IENA)」でも、彼の両親に会うなら前者、2人で湘南にデートに行くなら後者という具合に、一定の感度を担保してあげられれば1人のお客さまが回遊してくれるようになるわけです。新規のブランドを立ち上げるときには、コンセプトにまつわるインスピレーションを得るために、チームのみんなと一緒にブランドの雰囲気に合う海外に出張したりもしました。「〇〇っぽい天気」「〇〇っぽい海」という具合に、チームで共通言語を築いていく作業はとても楽しかったです。
WWD:「時流を捉えたクリエイティブソリューション」を掲げているが、今求められているブランドの共通点は?
森:メゾンブランドや個人ブランドが売れている背景には、信頼感があると思います。なので、僕がコンサルする際は、ブレない部分をどれだけ持てているかが大事とお伝えします。ブランドのアイデンティティーもそうですし、無駄な在庫を持っていないかどうかといった売り方も含めたうそのないコミュニケーションを取れるかがすごく大事な時代です。
WWD:今後のビジョンは?
森:強みのライフスタイル以外にも、これまで関わることができなかったような領域のお客さまでも経営支援をしていきたい。マーケティング的には、領域を絞った方が勝ち筋なんですが、僕はあえてその逆を行きます。センスはあるけど形にする方法が分からないビジネス未経験の若手も、喫茶店を始めたい70代のおじいちゃんも、「何でも屋」としてサポートしていきたいです。挑戦したいのは、地方活性化の事業です。地方を回ると、イベントを開催しているその部分は盛り上がっていても、周りは閑散としているような風景をよく見かけました。クリエイティブの力で、街全体を盛り上げるような仕掛けをしてみたい。アイデアはいくらでもあります。