米津玄師や藤井風、King Gnu、水曜日のカンパネラらアーティストのスタイリングを手がけるスタイリスト・Remi Takenouchi(レミ タケノウチ)。ミュージックビデオやライブ、CMに登場するアーティストのコーディネート提案を行うだけでなく、しばしば衣装制作も行なってきた。業界で華々しく活躍する彼女ではあるものの、その姿や経歴について詳細はほとんど公にされていない。「Remi Takenouchi」とは一体何者なのか?「これまであまりメディアに露出してこなかった」と話す彼女に、「WWDJAPAN」はインタビューを実施した。
人付き合いに苦手意識
WWDJAPAN(以下、WWD):スタイリストを目指したきっかけは?
Remi Takenouchi(以下、Takenouchi):私は日本で服飾の専門学校に通っていたわけではありません。高校卒業後、イギリスのロンドンに一時滞在していたことがあります。ダークで退廃的な街の魅力に取り憑かれ、「ここにもっといたい」と思ったんです。そのためにどこかの学校に通おうと決めたのが21歳のころ。料理か服飾のどちらかを専攻しようと軽く考えていたのですが、自分のこれまでを振り返ったときに、“ご飯を我慢してまで服を買う”ことはしてきたけど、その逆はしたことがないと気づきました。ただ、自分にデザインはできないだろうし、ビジネスに関われるほどの英語力もない。そう考えて“消去法”で残ったのがスタイリストコース。当時は「スタイリストになろう!」と強く意識していたわけではありませんでした。
WWD:もともと服が好きだった?
Takenouchi:大好きでしたし、かわいい服に対する憧れが強かったです。(現在は休刊している雑誌)「キューティ(CUTIE)」や「オリーブ(OLIVE)」の読者だったのですが、服のクレジットに”ラフォーレ原宿“と書いてあるのを多く見かけて。「このおしゃれスポットに行ってみなければ!」と高校1年生のときに意を決して出かけ、「スーパーラバーズ(SUPER LOVERS)」の洋服を買ったこともありました。
WWD:現在に至るまでのキャリア形成は?
Takenouchi:イギリス時代にスタイリストのアシスタントをしていましたが、何度か仕事をしたのちに、結局ケンカ別れをしてフリーランスになりまして(笑)。ただ、私は人付き合いが全く得意ではないので、自分の売り込みができず…。頂いた仕事を引き受けるという“待ちぼうけシステム”をとるしか方法がなかった。ポートフォリオを人に見せることすら怖く、「(ポートフォリオを)持っていますか?」と関係者に聞かれても、「今は他に送ってしまって手元にありません」などと言って切り抜けていました。だから仕事が全くない時期もありましたね。アーティストのスタイリングをするようになったのも、来た仕事がそうだったから、というのが理由です。自分がキャリアをイギリスでスタートさせたので、海外誌やランウエイ、広告の案件を頂いて働いていました。
WWD:転機は。
Takenouchi:The fin.というバンドのミュージックビデオ(以下、MV)でスタイリングをしたことです。ロンドンから帰国して序盤のころに受けた仕事でした。MV撮影の数日前に、美術セットの写真を見て「自分が考えていた衣装のままではダメだ」と思ってしまって。「申し訳ないけど作り直したい」「私を信じてほしい」と頼み込み、美術との相性を再考しながら衣装の準備をし始めたんです。汚し作業(※あえて汚れたように衣装を着色する作業)の担当者に連絡し、撮影日の天候に合わせて汚しの程度も大幅に変更しました。元々人にものを言えない性格だったので、私自身にとっては物申すことを覚えた“事件”でした。
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“衣装っぽくない”衣装を追求
WWD:アーティストのスタイリングに関してこだわりはあるか。
Takenouchi:基本的には“いかにステージで映えるか”を考えます。例えばライティング1つとっても、色調によって衣装の見え方が変わってしまう。青色のライトに、寒色系の衣装は合わないですし。衣装の色がどの程度飛んでしまうのか、そして衣装がどの程度透けてしまうのかなど、全て念頭においてスタイリングをします。ライブでダンサーさんがいる場合には、踊ったときに身体や動きをきれいに見せられるかということが重要です。振り付け映像も確認して、ダンサーさんが衣装さばきを考えられるようにしていますね。
私は衣装制作もすることがあるんですが、“衣装すぎる衣装”は作りたくないと思っていて。アーティストの雰囲気とギャップが生まれないように、本人になじむリアルさを意識しています。そうすると、私自身スタイリングしていて気持ちがいいんですよね(笑)。大変身させたい気持ちと同時に、アーティスト本人の素材を生かしたい気持ちが湧いてくる。どれだけ尖った衣装でも、“着せられている感”が出ないようにしています。本人が好きな要素を入れたり、身体のラインを生かしたりすることがその秘けつですかね。ルーズシルエットが好きな方であればその意見を衣装に反映するとか、意見を聞きつつもスタイルがよく見えるデザインを取り入れるとか。
WWD:アーティスト本人の素材に注目し始めたのはいつ?
Takenouchi:アイドルグループのスタイリングが契機かもしれません。それまではモデルの方々を相手にスタイリングすることが多かったので、クライアントが要望するテーマを私なりに解釈し、“一枚絵”を描くように衣装を組んでいました。モデルは衣服を見せることがお仕事なので、私が何を着せても違和感が生まれづらい。一方、アイドルの方々の場合は本人を「魅せる」ことが重要になってきます。本人の素材を無視して“やりすぎた”衣装を着せると、彼らの個性を殺しかねない。だから、衣装デザインを考えることも好きではありますが、それよりも正確なサイジングにこだわりました。リースした大きな衣装をそのまま着せるのではなく、サイズの合うものを着せることに重要性を見出した経験です。
スタイリスト職への思い
WWD:スタイリストとして活動し続ける原動力は。
Takenouchi:自分を救ってくれている仕事でもあるからです。この仕事に私は「生きていても良いんだよ」と言ってもらえている気がします。私は“怠け者”で、領収書の作成やスケジューリングは不得手。さらに、毎日同じ時間に起床して通勤することのできない極度の飽き性です。スタイリストは勤務時間や仕事内容、会う人など全てがいつもバラバラなので、自分の性に合っています。この仕事がなくなったら私は人として終わってしまう。だから必ず成功させなくてはならないんです。
そして、絶対に嫌いになることがない仕事だから、というのも原動力になっています。私は人よりモノに思い入れが強い人間で、その対象が全て服に振り切っている。仕事のネガティブな面を見たとしても嫌いにならないからこそ、うまくやっていけていると思います。“好きな仕事”とあえて表現しないのは、“好き”は“嫌い”になってしまう可能性がある感覚だから。自分の中でしっくりこないんです。ただ、ずっと頭が休まらない職業でもあるので疲れてしまい、「もういつ辞めても後悔しない!」と思うこともしょっちゅうですけどね。そういうときは趣味のゲームをしています(笑)。
WWD:ご自身にとって服は“嫌いになることがない”大事なモノだと。
Takenouchi:大事ですね。スタイリストをしているなかでも、ずっと服に感動してきましたし、コロナ禍を経て服の重要さを再認識しました。私は普段、本当にパジャマばかり着ているんですが、パジャマで過ごすのと、外着を着るのとでは高揚感が全く違う。自分のような人間を変身させてくれる“鎧”です。
WWD:今後目指していくスタイリスト像は。
Takenouchi:実は私、ゲームの国内大会に出場するほどゲームをやり込んできました。だからスタイリストとして「ファミ通」(※KADOKAWAが発行するゲーム雑誌)で連載を持つのが夢。もうこれはずっと言っていますね。人生第一事項です!ゲームのレビューを書くためには本業の休みを増やさなきゃいけないなぁ。あとは、真面目な話ですけど“地球に優しいスタイリスト”になることですね。せっかくこの世界に生まれたから、そろそろ地球に恩返しがしたい。まだ具体的な案はまとまっていませんが、地球環境のための継続できるシステムを業界に作りたいと思っています。「これやりました、でも一瞬で終了しました」では意味がないですから。