エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターのスチュワート・ヴィヴァースによる「コーチ(COACH)」のメンズ・コレクションが、ロンドンでお披露目された。ミニ丈のスカートと上に羽織るパステルカラーのフワフワコートに代表される少女性の高いウィメンズに対して、メンズのコレクションは"男クサい"雰囲気。たとえば素材は、迫力たっぷりのビッグボリュームを導くムートンやバッファローレザー。フィニッシングは、後にひび割れを施したガラス加工やヴィンテージ加工。カラーリングは、黒を中心とするダークトーン。柄はカモフラ、しかも、ペンキを壁にまき散らしたようなスプラッター模様を重ねたことで構成するカモフラージュ柄。あらゆる面において野性味を感じさせるアウターをコレクションの核とした。アクセサリーも、形こそ小ぶりのトートバッグだが、同じく素材にバッファローレザーを多用したり、スエードをあえて毛羽立ててみたりと随所に男っぽいムードをプラス。グローブを発祥とするブランドゆえ、トートバッグの一部にはグローブに由来する編み込みディテールを取り入れたが、それもまた男らしいムードを駆り立てる。そんな強いアウターやアクセサリーを、スリムなブラックパンツに合わせることでタウンユースなスタイルに落とし込もうと試みたコレクションだ。
ビッグフォルムのコートを主役とするコレクションは、「コーチ」のウィメンズとも共通だし、振り返ればヴィヴァース退任直前の「ロエベ」にも通じる。彼の得意技なのかもしれない。「ロエベ」も「コーチ」も、ともにレザーを核とするブランド。レザーやファーを使えば、コレクションが大きく、強くなるのは、当然と言えば当然のことではある。しかし「コーチ」は、都会に生きる男女に贈るブランド。極地探検や真冬のアウトドアに活躍しそうな、オーバーサイズのコートだけがブランドのウエアにおける"顔"になるのは、少しさびしい。大勢に愛されるアクセサリーブランドだからこそ、ヴィヴァースに期待するのは、あらゆるシーンで活躍する汎用性の高いウエアであり、スタイルの創出だ。
ウィメンズの発表、新コンセプトのショップオープン、そして今回のメンズへの本格進出が終わり、これでヴィヴァースによる一連の新「コーチ」のイメージ発表は、一段落を迎えたと考えることもできる。半年先の春夏コレクションでは、ぜひ、体をすっぽりと包みこむアウター以外のスタイル、アイテムを見てみたい。そのためには、得意だからこそ依存しがちな印象も否めない、Aライン以外の新たなフォルムを生み出す必要もある。