半年前の15年春夏から、ジョンが「ダンヒル」で提案するのは、「無作為の美」だ。これは、イロイロ考えず、なんとなく決めたスタイル、もしかするとどこかヘンテコな格好が、実は一番カッコいいというアイデア。たとえば半年前は、カラフルなスイムショーツの上にビジネスライクなトレンチコートを羽織ったり、正統派のドレスアップを楽しんでいるのに靴下だけが“悪目立ち”するほど明るくポップだったり、「無作為の美」は限定的だったが、15-16年秋冬コレクションは、その解釈を大幅に広げている。
ブリティッシュライクなグレーのタータンチェックパンツには、着古した雰囲気さえ漂う、オーバーサイズ気味のカシミヤのケーブルニット。タイドアップしてはいるものの、下に着用したシャツは片方だけがニットから“ぴょこん”と顔を出しており、ナード(ちょっぴりダサかわいい)な印象を受ける。このように、各スタイルは、少しずつ「どこかが、ちょっとヘン」で、だからかわいらしい。シャツの上にラガーシャツを着て、すべてをサスペンダーで吊ったハイウエストパンツにインしたり。ブラック&ホワイトのジャケットに黒いベロアのパンツというスタイルに、ポップな赤いニットタイと同系色のシャツを合わせカジュアルダウンしたり。パジャマのようなセットアップにショート丈のニットをスタイリングしてリラックスムードたっぷりなのに、最後はミンクのチェスターコートでキメてみたり。そして、そのパジャマシャツとパンツは、ピンク×グレーという意表を突くカラーコンビネーションだったり。アイテムの合わせ方やスタイリングはもちろん、配色、サイジングにいたるまで、どこかにビミョーな違和感を覚える愛らしいスタイルを並べ、ブランドイメージさえ大きく変えそうな、若々しさ溢れるコレクションを提案した。
既存の「ダンヒル」顧客には勇気のいる、スタイリングテクニックが問われるスタイルかもしれない。しかし、もちろんそれはコマーシャルなラインでしっかり用意してくれることだろう。「エルメネジルド ゼニア(Ermenegildo Zegna)」のステファノ・ピラーティに次ぐ、老舗スーツブランドの新たな顔が、ロンドンで誕生した。