秋冬コレクションにも関わらず、ファースト・ルックがリネンツイルのチェスターコート&パンツという点から、すでに「無作為の美」のムードに満ち溢れている。反対にセカンド・ルックは、一転して秋冬らしい太うねのコーデュロイのジャケットとドライウールのエラスティック(ゴム)パンツ。パンツからは、マルチチェックのボクサーショーツ、つまり下着が覗いており、肩の力が抜けたスタイルを演出している。素材は、その後も千変万化し、モールスキンやフリース、デニムといったカジュアルなマテリアルから、ドライウールやベルベットなどのフォーマルな生地まで。ここにブリーチや飛沫(しぶき)を浴びせたようなスプラッタリングなど、トーマスが得意とする“使いなれた雰囲気を演出する後加工”を加えることで、多種多様な素材は、ある種の一体感を伴い、1つのスタイルを構成していく。
「無作為の美」は、色使いにも現れている。基本はダークカラーで深い色合いのグレーやブルー、グリーンを基調としているが、そこには突如イエローやオレンジ、パープル、ピンクなどが登場。いずれも鮮やかではあるが、上述したように色あせた雰囲気を帯びているので、リラックスシルエットのスタイルにマッチする。アイテムとしては、スポーツを意識した半年前の春夏に提案したスエットやフーデッドパーカ、エラスティックパンツなどのアイテムがバリエーションを増した。
アクセサリーは、柔と剛、双方の提案が印象的だ。「柔」は、ブランドの代表であるイントレチャート。洗うことでヴィンテージムードを帯びたバッグは、クルッと丸め小脇に抱えられるしなやかさだ。シカの革を用いたバックパックも、「柔」のカテゴリー。一方の「剛」は、新型の“モナコ”。スクエアシェイプのドクターズバッグのようなデザインで、エキゾチックレザーなどを多用しているせいか、リラックスしたスタイルの中で強い存在感を放った。
「無作為の美」については、ロンドンでも「ダンヒル」がこのアイデアに基づいたスタイルを披露した。だが、「ダンヒル」が古き良き英国の時代やデビッド・ホックニーらのスタイルアイコンを参考に“少年性”を演出したのとは対照的に、「ボッテガ・ヴェネタ」はトーマス・マイヤー自らのセンスでアイコンも参考にすることなく、“センスの良い、心地よいライフスタイル”に着地しているのが印象的だ。