この夏は数年振りに開催される花火大会も増え、街でも多くの浴衣姿を見かけるようになった。そこで、浴衣を着て出かけたい人のために、初心者でも今から簡単にマスターできる着付け方法を紹介する。教えてくれるのは、東京・中目黒に店を構え、ファッション感覚で楽しめる着物や浴衣を提案する「きもの カプキ(KAPUKI以下、カプキ)」だ。店主の腰塚玲子が、知っておきたい浴衣の知識と共に指南する。
着付け前に大切な下準備を
浴衣を着る日は、あらかじめ余裕を持って準備時間を確保したい。「せっかくのお祭りや花火大会ですから、万全の状態で臨みたいですよね。まずは着付けに必要な浴衣、腰ひもを2本、すずりベルト、帯の用意をしましょう。浴衣にシワが入っていたらアイロンでケアをしましょう」(腰塚店主)。
メイクとヘアは着付けの前に
「着付ける前にヘアメイクを済ませておくと、髪型が崩れずきれいに保てます。リップだけは最後の仕上げにしてください。大切な浴衣に色が移ってしまうと台なしですからね。よくお客さまからも相談される髪型については、、基本
的には自由でOK。最近はダウンヘアも増えてきていますが、うなじを美しく見せるスタイリングだといいですね」。
浴衣姿を優美に見せるための下着・肌着の選び方
初心者でも簡単。浴衣の着付けを実践
下準備が整ったところで、いざ着付けをスタート。今回は1人で着付けることを前提に、美しい着方をレクチャーする。まずは動画をチェックしながら、浴衣、腰ひも、胸ひもとすずろベルトもしくは伊達締めの4種類を用意しよう。
STEP1
浴衣を羽織り、左右の袖口を持って両袖をピンと張り、バランスを調整する。浴衣の襟は男女問わず、自分から見て右身頃から合わせるのが正しい。よく女性は「左前」、男性は「右前」と言われることがあるが、実際はどちらも「右前」でOK。
STEP2
浴衣の前身頃を左右に広げた後、それぞれが重なるように片手で持つ。袖を巻き込まないように整えたら、もう片方の手で背中をつまみ、少しずつ裾をくるぶしの下あたりの位置まで下す。
STEP3
前身頃をそれぞれの手で持ち、浴衣を広げる。その後、左手を右の腰に当てるイメージで、左身頃の端が右の腰位置にくるよう幅を調整する。左身頃を開き、右身頃を体に沿わせて、ゆっくり巻き込む。右身頃を重ねたら、裾は床から10センチほど上げ、右腰骨の少し上の位置で腰ひもを当てる。
STEP4
腰ひもを後ろで交差させ、左右に引いて締めたら、体の中心を避けて結ぶ。ウエストが苦しくない程度にギュッと締め、余った部分はひもに挟み込む。
STEP5
両手を浴衣の脇(身八つ口)から入れて、鏡を見ながら後のおはしょり(生地をたくし上げた部分)を整える。
STEP6
その後、右身頃、左身頃の順に襟を重ねる。左手を浴衣の脇(身八つ口)に入れて右身頃を軽く持つ。このとき右手は左身頃に添える。両手を軽く引いて、襟の位置を整える。
STEP7
胸ひもを持ち、みぞおちの位置に置く。前から後ろ、後ろから前へ二重に巻く。フロントで蝶々結びをし、人差し指をひもの下から入れ、中心から脇に向かってひものねじれや歪みを正す。
STEP8
襟が途中でずれてしまうことを防ぐために、腰紐を巻いた位置にすずろベルト(あるいは伊達締め)を重ねる。テープが背面に来るように巻く。伊達締めの場合は、一番下のひもがへそ位置にくるように結ぶのがベター。
STEP9
最後に右手でおはしょりの端を押さえて、左手を右から横へスライドさせる。シワやたるみが気にならなくなるまで整えたら完成。
浴衣を美しく着るためのチェックリスト
ひと通りの着方を学んだところで、より美しく着付けるためのポイントを押さえておきたい。身長などそれぞれの体形に合わせた調整方法など、知っておくと便利なポイントを腰塚店主がガイドする。
POINT1
「浴衣を羽織ったら背縫い(背面の中心線)が中央に来るように、鏡でチェックしましょう。この時点で左右のゆがみが生じてしまうと仕上がりのバランスが悪くなり、せっかく着付けてもやり直さなければなりません。左右の袖口を持って両袖をピンと張り、バランスを調整してくださいね」。
POINT2
「仕上がったときに、浴衣から足首が見えてしまうのはNG。腰ひもや胸ひもを結んだ際におはしょりができるので、裾を決める際には、くるぶしの少し下ぐらいの位置で、ちょっと長いかな?と思う程度がよいです」。
POINT3
「右身頃の位置を決めるときに、床から15cmほど高い位置まで褄先(裾の角)を持ち上げると、より浴衣姿が美しくなります。裾のラインが平行だとシルエットが重く見えてしまうので、ラインが斜めになるように褄先を上げて、足元の印象をきれいにまとめましょう」。
POINT4
「浴衣を着る際に注意してほしいのが、シワとたるみ。フラットになるように心掛けると、美しい仕上がりになります。腰ひもを結ぶときも同様にしてください。中央を避けてひもをサイドで蝶々結びした後、前身頃と後ろ身頃共にウエストまわりのシワやたるみがないか、腰ひもを引っ張りながら整えてください」。
POINT5
「おはしょりを整える、このステップはとても重要です。きちんと整えないとおはしょりがもこもことかさばって、せっかく和装ブラで胸元を押さえても膨らんで見えてしまいます。そうならないために、浴衣の脇(身八つ口)から両手を入れて、入念にシワやたるみを伸ばすことが大切!」。
POINT6
「浴衣の顔ともなるのは襟元です。開き具合に厳密なルールはありませんが、開きすぎると上品に見えない場合もあるので要注意。でも、襟合わせは慣れたら簡単です。着崩れしないよう、左右の前身頃を優しく引っ張ると、出先ではだけるというトラブルを避けられます。このとき、強く引っ張り過ぎてしまうと衣紋(首裏)がきれいに抜けず、窮屈な印象を与えてしまうので気をつけましょう」。
POINT7
「元々は“伊達締め”という布帛の帯を締めて、襟元が安定するように整えるのですが、最近では“すずろベルト”というメッシュ生地のベルトを使うことが多いです。これは胸ひもの上から巻くだけで、簡単にズレや蒸れを抑えてくれるという優れもの。初めての方は、着付けのハードルを下げてくれるアイテムを使うのをおすすめします」。
一人で簡単にできる帯の結び方
帯結びには、さまざまな種類がある。浴衣は着物に比べてカジュアルなシーンでの着用が多いため、初心者はまず簡単な結び方にチャレンジしたいところ。腰塚店主も「普段はほとんどこの結び方をしている」という“片ばさみ”の工程を紹介する。
STEP1
幅約15cm、長さ約330〜360cmほどの細い帯で、一般的な帯の半分のサイズと言われている「半巾帯」を準備。まず、帯を半分に折り、先端から1メートルほどのところで、斜めに折り返す。
STEP2
お腹の中央に帯を当て、半分に折った方を右肩に上げる。このとき三角の折り目が正面を向くように。折った部分を右手で軽く押さえる。反対側の帯は半分に折らずそのままで、右側と同様、左手で軽く押さえる。
STEP3
帯がずれないように位置を調整しながら、ぐるりと帯を2周巻く(ウエストが細く帯が余る人は3周)。体と帯に隙間が生まれないように、苦しくない程度でしっかりと締める。残った部分は半分に折り返す。
STEP4
2〜3周したら、腰に巻いている方の帯を少し斜めに折り、右肩に上げた方と結ぶ。その際、腰に巻いた帯は上側に来るように。両方向にギュッと引っ張り、隙間を作らないようにする。
STEP5
ウエストに重なった帯の間に、上側の帯の先端を差し込む。内側から帯を引っ張り、形を整える。帯が少しだけ覗くぐらいの見え方が理想。長くなってしまう場合は、差し込む前に帯を折って長さ調整する。
STEP6
もう一方の帯を前帯の間に入れる。長さの目処は人差し指1本分が目安。ウエストに巻いた帯の内側に先端を入れる。
STEP7
結んだ部分がねじれていないか、たるんでいないかを確認する。右手で帯の前部、左手を後部に置き、結び目が背中の中心に来るように回す。
STEP8
完成。「片ばさみは崩れにくいので、花火大会など人混みが多くなかなかお直しができないお出かけ先でも安心。コンパクトな見た目は、上品な印象を与えてくれます。帯の位置は上だと若め、下になると大人っぽい印象に」(腰塚店主)。
巻くだけ!「カプキ」が提案する“帯ベルト”
腰に着けるだけの“帯ベルト”は「カプキ」オリジナルアイテムで、浴衣や着物をより身近に感じさせてくれる。
そもそも浴衣はいつから着るもの?基本知識をおさらい
「地域によってさまざまですが、東京では5月中旬から9月中旬までを目処に着ることが多いですね。ちなみに、浴衣は湯上がりのバスローブのような目的で生まれたものなんですよ」。
改めておさらいしたい、浴衣の種類
「着物に比べて、自宅でお手入れしやすい素材が多いです。定番は目が詰まった綿コーマや透け感のある綿絽(めんろ)、さらりとした風合いの麻など。縦方向に不規則なシボが入った綿楊柳(めんようりゅう)など、凹凸感のある生地も人気です」。
下駄やバッグでモダンさを加えるポイント
「お洋服を選ぶ感覚で、自由にコーディネートを楽しんでほしいです。初めて浴衣に挑戦される方にとって、小物まで新しく買いそろえるのはハードルが高いはず。それならば、自分らしくおしゃれを楽しめるアイテムを合わせる方が絶対にいいですよね。足袋サンダルや厚底シューズなど、トレンドを意識した足元も素敵だと思いますよ」。
来年も美しく着るためのお手入れ方法
「綿や麻などは基本的に家で手洗いできます。大事なのは洗濯後の干すときです。まずは直射日光を避けて陰干しにします。可能であれば浴衣用のハンガーを選ぶと、長い袖もシワなく乾かすことができます。もしなければ、浴室乾燥用のポールに掛けて乾かすのもよいと思います。浴衣にとってシワは大敵なので、アイロンがけも忘れずに。ですが、綿楊柳や絞り染めの浴衣など凹凸のある生地へのアイロンは避けてください。それぞれの素材にあったお手入れ方法を意識していれば、特に難しく考えることはありません」。
気をつけておきたい浴衣のマナー
「基本的に、自分の体形に合った着こなしができていれば特にマナーというものはないと思います。たとえ襟元が開いていたとしても、それが意図された開き具合で、上品に見えていたら個人的にはOK。絶対にダメ!というものはありませんが、唯一気をつけてほしいのは着崩れです。浴衣が崩れるのはどうしても避けられないものなので、常に自分をチェックすることが大切です」。
浴衣をおしゃれに、楽しく着こなすために
「既製服とは異なり、浴衣は自分の体に合わせて着付けるもの。『カプキ』では、おはしょりなしで、ぴったりサイズの浴衣を作るサービスもあり、オーダーメードスーツのような存在として捉えています。浴衣を着ていると自然と背筋が伸び、所作が美しくなってくるはず。自分自身を見つめる良い機会にもなりますし、普段のファッションのように浴衣を楽しんでみてほしいです」。
腰塚玲子(こしづか・れいこ)着物屋「カプキ」店主 プロフィール
「ファッションとして楽しむ着物」をテーマに、2014年に東京・中目黒に着物屋「カプキ」をオープン。スタイリストとして活動していた経歴を生かした、型にはまらない着こなし提案も支持を得ている。商品はセレクトした着物や浴衣に加え、18年からはオリジナルブランドを立ち上げた。レザーの帯ベルトやデニム生地の着物など、独創性のあるオリジナルアイテムを多数取り扱う。
MODEL : ANNNI YANG(TOMORROW TOKYO)
PHOTOS : MARISA SUDA
HAIR & MAKEUP : NAHO IKEDA