その言葉を手掛かりにコレクション全体を見つめ直すと、序盤から幾度となく現れる、細長い生地を、まるで体に沿ってらせん状に巻き付けたかのようなパターンのジャケットの意味が想像できるようになる。このジャケットは、まるでらせん階段を下っているかのように、肩口から生地が下へ下へと弧を描くように伸びていき、最終的には裾にたどり着くパターン。それはまるで、生まれてから長い人生を歩み、最終的には死んでいく人間の運命のようだ。らせん状の生地が下に下に一方向に進んでいくように、人間の運命は決してさかのぼることができず、ただひたすらに過去から現在、そして未来という一方向の歩みを進めながら、見えないゴールに向かって進んでいく。今シーズンの「オム プリュス」は、そんなメッセージを投げかけているような洋服だ。生地をらせん状に巻き付けたジャケットは、時にその一部分が別の色に切り替わっている。これは、たとえば転職など、たびたび迎える人生の転機を表現しているのではないか、と考えるのは行き過ぎだろうか?終盤は、まるで死装束のような純白のウエア。人生の最後を一番清らかな心と姿で迎えようとする強い意志の現れのようだ。
この解釈が正しいかどうかはわからないが、川久保玲は勇気をもって「死」と向き合い、コレクションを生み出したのは間違いないだろう。時代は健康的な「ヘルシー」、人生を素直に楽しむ「ハッピー」など、難しい問題と対峙するのではなく、感覚的に心地よいムードとともに時間を送ろうという憧れを描くクリエイション全盛の時だが、彼女は今なお、既存の社会にある種のアンチテーゼを投げかけているようで、そこからは「強い意志」が伺える。今人々は、彼女のように、洋服を通して強いメッセージを表出することにこだわらなくなっているし、このままではおそらく、そんな人はもっと減っていく。そして、だからこそ他のブランドは感覚的になっている消費者に近付き、彼らが感覚的に共感できる洋服を作ろうとしているが、「オム プリュス」は、それとは違う。頭で必死に考え、自分なりの答えを見出し、理解しようとしなければ着こなせない洋服を生み出している。コレクションは、着る側との真剣勝負だ。孤高のデザイナー、川久保玲。時代は、正直彼女にとってアゲインストな風ばかり吹いている印象だが、彼女はそれでもなお、ひるまず、戦いつづける。