寝ていたモデルが目を覚ますと、ゆっくりと起き上がり、静かに靴を履く。つま先まで全身真っ白のスーツ姿だ。まずは左のダイニングで紅茶を飲む。そのままゆっくりと右の仕事部屋へと向かった。時折頭を悩ます表情を浮かべ、仕事に勤しんだ後、真ん中の寝室に戻った。そして白い洋服を真っ黒なスーツに着替え、真っ白な部屋をすべて真っ黒に塗り替えてしまった。一面暗くなった部屋で、彼は再びベッドに潜り込む。
その後黒い雪が降り、登場したコレクションのルックは、シルクハットにテーラードコート、レイヤードを強調したロング丈のシルエットのジャケット、ブラックタイ、得意とするクロップド丈のボトムス、シューズにいたるまで、すべてが真っ黒。まるで喪服だ。黒いレースのロングスカーフで顔を覆うことで表情まで黒く隠し、悲しんでいるのかはわからない。彼らはゆっくりと部屋の前を進み、ベッドで横たわるモデルを一べつし、また静かに進んでいく。
ブラックで統一しているからこそ、レイヤードの素材のコントラストも目を引く。光沢のある織り柄でジオメトリック模様をのせた。アイテムも素材も豊富なバリエーションで、レイヤードに厚みをもたせている。キーモチーフはクジラだ。鯨幕(葬式場に貼る白黒の縦じま模様)から着想しているかはわからないが、クジラをコート一面にちりばめたり、クジラ型のボストンバッグを片手に抱えたり。
「ギャルソン」がそうであったように、トムも死への思いを馳せた。寝て、食べて、仕事をする単調な毎日を繰り返し、やがて静かに訪れる死を憂いでいるようにも見える。しかし、コレクションのバリエーションに富んだブラック・フォーマルと時折挟むクジラやカメのアイコンに、悲しみは見えなかった。トムらしく皮肉をこめながらも、あくまで客観的に人間の一生を捉えている。