2階から1階へと回遊しながら歩くモデルが着ているのは50年代と60年代、そして70年代にインスピレーションを受けたスタイル。光と色が反射する部屋の中でそれらの時代はミックスされて2015年流に昇華されてゆく。前シーズンは18世紀の服飾をアップデートして見せたように、特定の年代のスタイルを研究し、クチュリエたちの力を借りてモダンに再解釈するのはラフ・シモンズが得意とするところだが、今回は特定の年代にとどまらず3つの年代をまたぎ、各時代の象徴的な要素を「クリスチャン ディオール」のエレガンスやロマンチシズムの中にまとめあげた。「50年代のロマンス、60年代の実験的な要素、70年代の自由な精神。過去の時代の美から学びつつあくまで現代の目線で表現したかった」とラフ・シモンズは言う。
キーワードは、デヴィッド・ボウイの曲名でもある「Moonage Daydream(月世界の白昼夢)」。同曲が収録された1972年のアルバム「ジギー・スターダスト」でデヴィッド・ボウイが演じたい“ジギー”のアンドロジナスで近未来的なヒーロー像は確かに、今季の「クリスチャン ディオール」に通じるものがある。サイケデリックなプリントのジャンプスーツに、オレンジ色のストレッチの効いたサイハイブーツ。そこに60年代調のカラフルなマイクロミニスカートを重ね着する。50年代調の7部袖丈のコートはPVCで仕立てて小花柄を施す。中に着るのは、グラムロックスターのようなビジューで飾ったミニドレスだ。
パステル色のギピュールレースで仕立てたスーパーロマンチックなフレアドレスが登場したかと思えば、ツイッギー風ミニ丈のコートドレスが登場する。「会場の作り方も、コレクションの内容も“めまぐるしさ”を求めた」というラフの言葉通り色々な要素が次々と交差する。共通しているのは、いずれも明るい色をまとい暗さは微塵もないこと。連日暗いニュースが続く中で見るオートクチュールは、確かに“白昼夢”かもしれないが、ラフの提案はそれでも見る者に少しの楽観的な気分と未来志向を与えてくれる。そんな気分にさせてくれるコレクションだ。