「グッチ(GUCCI)」は、フリーダ・ジャンニーニの後任クリエイティブ・ディレクターとして抜擢したアレッサンドロ・ミケーレによる初のウィメンズ・コレクションを発表した。ミケーレは、先に発表したメンズ・コレクションで男女の性差を超える“ノー・ジェンダー”スタイルで見る者の度肝を抜いたが、ウィメンズでもまた既存の「グッチ」にはない新しい価値観を持ち込み大胆な変革を行った。
度肝を抜かれた。そう感じた業界関係者は多いだろう。ショーは何もかもが変わった。演出は前任のフリーダ・ジャンニーニが好んだシックでラグジュアリーなムードから転換してストリートスタイルを採用。赤と黒と白のタイルの壁で囲んだ会場にアルミ製のランウエイは、工事中の地下鉄通路の趣だ。ショーの前に配られたリリースには細かな服の説明はなく、フランスの哲学者ロラン・バルトの「コンテンポラリーは反時代的である」という言葉を引用したメッセージが綴られている。「規制の概念を打ち破り自分らしいあり方を選択する自由」といった言葉からは、「グッチ」を大胆に刷新する強い意志が伝わってくる。
コレクションは大きく2つのパートに分かれる。“ウィメンズを着るメンズモデル”5人が着る“ノー・ジェンダー”スタイルと、プリーツやレースを多用したロマンチックなガーリーなスタイル。共通しているのは、肩の力が抜けたどこか“オタク”風の雰囲気だ。
男性モデルが着る“ノー・ジェンダー”スタイルは、パジャマ風スーツに花柄のボウタイブラウスや、ピンクのフリルブラウスに真っ赤なスラックス。長髪&眼鏡の女性モデルが着る、サルトリア仕立てのメンズライクなパンツスーツも登場するから、どこまでが男か女か見ているとわからなくなってくる。
一方少女スタイルは、乳房を露にしたレーストップに部分的にプリーツを施した真っ赤なレザーの膝下丈スカートに始まり、裾にティアードを施した総フローラルプリントのドレスやもこもこのファーコートなどボヘミアン調のアイテムと、エンブレム付きジャケットなどスクール調のアイテムを掛け合わせる。
「グッチ」のアイコンと強みは随所に取り入れられている。上質なレザー使い、「GG」ベルト、赤と緑のコンビ、ホースビット使い、ミリタリーやスクールといったユニフォームの要素、そしてフローラルプリント。にも関わらず大きく変わったと印象付けるのはプロポーションバランスの変化によるものだ。トム・フォード以降、男性と女性の肉体美を強調する“完璧”なバランスによりクラス感やステイタスを提案してきた「グッチ」だが、ミケーレは身体のラインを強調しないサイズ感でぐっと肩の力を抜いてみせた。ベレー帽にリングの重ね付け、つっかけるようにしてはくファー付きフラットシューズといったアクセサリー使いも、他人の目よりも“自分らしさ”を大切にする現代の若者像を体現しているようだ。色も赤以外は中間色が多く曖昧さを残す。
男は強く逞しく、女はセクシーに。「グッチ」のみならず、イタリアの伝統的なファッション観を揺るがすミケーレの提案は恐らくこの後、従来の「グッチ」の顧客から大反発をくらうだろう。しかし、「MSGM」など昨今台頭しているイタリアの若手デザイナーたちの軽やかでコンテンポラリーな感覚に当てはめて見れば、この思い切った方向転換は間違っていない。マスをもとり込み成長してきたラグジュアリー・ブランドであり大企業であるグッチのマネージメント部門がこの大胆な変革をビジネスにどうつなげるのかに注目したい。