これまでの経緯に感傷的になり、大げさな評価を下す必要はない。ガリアーノとチームはプレタポルテのコレクションとしてやるべき仕事をきちんとした。今後、ガリアーノとマルジェラの関係は長く続くことになるだろう。
1月にロンドンで発表したオートクチュールライン「アーティザナル」が“尖った”ものであったのに対して今回は、マルジェラとガリアーノの両者のアイデンティティーが溶け込んだ日常服を見せた。クラシックをベースにしながら、それを一度解体し、再構築して新しいフォームやスタイルを生み出し、そこにガリアーノ流のロマンチシズムを注ぎ込む。結果、壊れているようで美しい、美しいがどこか壊れている服が生まれている。
ガリアーノのデザインの魅力の一つは正当派のバランス感覚にある。画家が一枚の絵の構図にメッセージを込めるように、服の中に絶妙なバランスを取り入れる。ポケットやラペルの大きさはどのくらいが心地よく美しいのか、袖口の切り替えはどうか。細部にわたって神経を巡らせて彼が美しいと感じるバランスを取る。
ファーストルックの明るいキャメル色のマキシ丈のコートにはそのバランスが凝縮されていた。スナップボタンは服の内側に隠し、ポケットは小さくフラットで、コートの流れるようなシルエットを邪魔しない。マキシ丈コートは前半のキーアイテムで、エナメルやジャカード、スエードなどさまざまな素材で登場する。合わせるのはブレードやシルクサテンのミニスカートだ。
また、メンズライクな要素とスーパーフェミニンな要素が交互に登場した。メンズスーツのピンストライプ生地が多用され、背負うようにして着るマルジェラ得意の“解体された”スーツやオーバーサイズの袴風パンツが登場したかと思えばレースのボディスーツの上にビーズ刺しゅうのチュールを重ねたドレスを見せる。
クラシックをベースにしているという点で、マルジェラとガリアーノにはそもそも共通点があるが、従来のマルジェラがそこにスパイスとして“ユーモア”を加えたなら、ガリアーノが注ぐのは“ロマンチシズム”だ。それがよく現れたのはレースや刺しゅうの使い方に加え、ドラマチックなアクセサリー使い。首元を飾ったハンドペイントの花飾りや、鮮やかな色の手袋、ストラップが壊れたようなメリージェーンなどが大切なパートを担っている。
最も“ガリアーノっぽさ”の印象を残したのは、モデルのパフォーマンスだ。時々、ショーのリズムをあえてかき乱すように、まるで精神が壊れたようなモデルが挙動不審で登場し、バッグを抱きかかえ、心ここに在らずの様相で猫背で足早に歩く。“壊れるギリギリの美”はガリアーノのクリエイションそのものだ。