坂口輝光(さかぐち・てるみつ)/坂口捺染社長 プロフィール
岐阜市出身。県立岐阜商業高校卒業後、米デンバーに留学。ロサンゼルスに移り、ビンテージマーケットのローズボウルでバイヤー業のアルバイトなどを経験した後に帰国し、祖父が立ち上げた坂口捺染に入社。28歳で専務就任、31歳で父親を継ぎ社長に。現在42歳で、私生活では2児の父。母校の岐阜商野球部の世話役副会長も務めている。愛車は遠くからでも目立つスカイブルーのジープ“ラングラー” PHOTO:SHIN ARAKI
岐阜市にあるプリント工場、坂口捺染の坂口輝光社長が話題になっている。ド派手な外見と同社が取り入れているワークライフバランス重視の働き方を、地元メディアがこぞって取材。噂を聞きつけた全国放送のバラエティー番組や週刊誌なども、次々と取材に訪れている。8月のある日、「WWDJAPAN」も同社を訪ねた。現れた坂口社長は、「クロムハーツ」のサングラスに「ケンゾー」のロゴT姿と、期待を裏切らないかぶいた出で立ち。でも、従業員や地域のために何ができるかを考えて実行に移すリーダーシップには、目を見張るものがある。採用難にあえぐ同業者が多い中、同社には「ここで働きたい」という希望者が、老若男女絶えないという。(この記事は無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
月曜の朝8時前、岐阜駅から車で30分弱の坂口捺染に、社員が次々と出勤してくる。この日は、週2回(月、火)の朝ヨガの日だ。倉庫の空いたスペースにヨガマットがずらりと敷かれ、講師の女性が登場すると、8時20〜50分までがヨガタイム。この日のヨガには社員28人が参加、坂口社長の姿ももちろん最前列にある。「工場で働いていると腰痛は悩みのタネ。社員の何人かが腰痛解消のために動画を見てヨガをしていると聞き、それならちゃんと福利厚生として先生も呼ぼうと、1年ちょっと前から朝ヨガを行っている」と坂口社長。ヨガを終えて軽い朝礼を済ますと、社員たちは工場内の持ち場に散っていく。
捺染という社名の通り、同社はシルクスクリーンやインクジェットのプリント加工を手掛ける企業。取材時も人気カジュアルブランドのTシャツを刷っていた。1日100柄以上をプリントし、日産枚数は2万弱。建屋は離れた場所にあるものを含め6つという。「従業員数は昨年末が約80人だったが、今は200人ほど(パート社員、委託雇用含む)」。2023年11月期の売り上げは前期比60%増の10億円前後を見込んでいるが、「5年後には従業員500人、売上高30億〜40億円を目指したい」と勇ましい。
シングルマザーや高齢者を積極採用
日本のアパレルの生産現場は、海外移転でこの30年間右肩下がりが続いてきた。特にここ数年はコロナ禍がダメ押しし、職人の高齢化による廃業が増えている。その中で、坂口捺染がこんなにも前のめりでいられるのはなぜなのか。「うちだって、オレが22歳で入社した当時は売上高5000万〜6000万円だったし、親父を継いで社長になった13年には3億4000万円ほどだった」と坂口社長は振り返る。そこからさまざまな試行錯誤を重ねてきたから今がある。
「10年前は工場への泊まり込みも多く、自分も時間外労働が月200時間に上ったこともあった。社長に就いて、まずはそこを改めようと決めた」。プリント工場は一般的に3〜5月が繁忙期で、当時の坂口捺染はその時期の仕事に頼る一本足打法。それだと、無理なオーダーにも対応せざるをえなくなり、残業が増える。そこで、「野外フェスやライブ用のTシャツ、テーマパークのグッズ、文化祭のスタッフTなど、取引先のチャネルをアパレルブランド以外にも広げるように努め、年間の仕事量を平準化した」。その結果、翌年から時間外労働は一人あたり月30時間に激減した。
人材採用の面では、働きたくても時間の融通がきかないシングルマザーや主婦層、雇用先が見つかりにくい高齢者に着目し、彼らが働きやすい環境を追求。パート社員は出退勤時間を日々の個人の事情に合わせ、突然の休みが出ても支障が出ないフレキシブルな体制を敷いている。また、「プリントの現場仕事は高齢者にはキツイ。ミシン作業だったら少しは働きやすいはず」と考え、ミシンを扱う新部署を立ち上げ。Tシャツへのタグ縫製を社内で行うようにした。完成品の袋詰めは以前は外注していたが、委託雇用として登録制にし、工場内で作業してもらう形に変更。「内職は安くてもうからないという世の中の常識を変えたい。実際、効率よく働いて時給換算で最低賃金以上を稼いでいる人もいる」。
地域の2000人を集客したイベントも
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