ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ユニクロが9月15日に発売する「ユニクロ:シー」がはやくも話題を集めている。短期的なコラボレーションではなく、クリストフ・ルメールと組んだ「ユニクロ ユー」のような長期的なプロジェクトになるもようだ。ふだんは辛口の小島氏だが、「ユニクロ:シー」については珍しく高く評価している。
ようやくコロナ禍から解放されたのに、世界は分断と対立がエスカレートし、地球環境は汚染と気象変動にさいなまれ、人々の心は荒んで文明は終末へ直走っている感があるが、そんなご時世で台頭しているキーワードが「ニュートラル」だ。それを体現する2つのブランドに注目するとともに、コロナ明けの開放感が落ち着いてくる今秋冬にピッタリのファッショントレンドとしても期待したい。
「ユニクロ:シー」は消耗衣料を超える愛顧服
「WWDJAPAN」編集長の村上要氏は8月21日配信のエディターズレターで「脱帽、『ユニクロ:シー』」とのタイトルで、9月15日から発売される英国人デザイナー クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)氏によるユニクロの新ウィメンズライン「ユニクロ : シー」を絶賛していたが、ユニクロ嫌いの私も珍しく同感だった。
インフレに圧されてユニクロも昨年秋冬物から値上げが目立つが、商品もコンセプトも変わり映えがしないままの値上げは顧客の離反を招きかねない。23年8月期上期(9月〜2月)は客単価が11.8%上昇しても客数は1.6%減とダメージはまだ軽微だったが、8月を残す下期(3月〜7月)は客単価が10.1%上昇して客数は5.2%減と価格抵抗感が強まっていた(客単価ニアイコール商品単価と見なせる)。
機能訴求の実用アイテムで売り上げを伸ばしてきたユニクロも原点はアメカジベーシックであり、アクティブな機能合繊アイテムのアスレジャーが世界中で伝統的なカジュアルを駆逐していく中、ユニクロも安泰とはいえず、かつてベンチマークしていた「ギャップ(GAP)」や「ジョルダーノ(GIORDANO)」のように凋落するリスクに直面している。サステナブルなエシカル消費が問われる中、値上げを契機に「低価格高品質な消耗衣料」から「中価格高品質な愛顧衣料」への変貌が問われていたのではないか。
量販的な衣料品はおおむね3年程度(ファストファッションは1シーズン)で買い替えられる消耗品に位置づけられるが、グローバルNB(ナショナルブランド)など中価格ブランド衣料品は10年以上も愛顧され、手放しても別の人が購入して愛顧され続ける。中古衣料市場では前者は高年式品(おおむね3年以内)しか再販価値がないが、後者は低年式品も再販価値があり、ビンテージ品として高く評価されるものもある。
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