コロナ禍によるロックダウンの影響や急激な金利上昇などで苦戦するイギリスのファッション市場だが、オンワードホールディングス傘下の「ジョゼフ(JOSEPH)」は2022年に、15年以来初となる営業利益を計上した。その立役者であるバーバラ・カンポス(Barbara Campos)最高経営責任者(CEO)に注目が集まっている。
フランス出身のカンポスCEOはハーバード・ビジネス・スクール(Harvard Business School)で学んだ後、「ダイアン フォン ファステンバーグ(DIANE VON FURSTENBERG)」や「フルラ(FURLA)」「ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)」などでセールスやマーケティング部門の要職を担ってきた。18年にジョゼフに入り、不採算が続いていたブランドの再構築を図った。20年には、デザインチームに所属していたアンナ・ルンドバック(Anna Lundback)と夫で「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」でグローバル・クリエイティブ・ディレクターを務めていたフレデリック・デューア(Frederik Dyhr)の2人を共同クリエイティブ・ディレクターに任命。「ジョゼフ」の創設者である故ジョゼフ・エテッドギー(Joseph Ettedgui)氏が掲げた実用的でラグジュアリーな服という当初のミッションを果たすべく、再始動した。
22年度の売上高は前年比30%増の4710万ポンド(約86億円)、営業損益は前年のおよそ900万ポンド(約16億円)の損失から36万6000ポンド(約6697万円)の黒字に転換し、純損失も大幅に縮小した。カンポスCEOは今後5年で、「ジョゼフ」の24店舗と「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」や「マッチズファッション ドットコム(MATCHESFASHION.COM)」「マイテレサ(MYTHERESA)」、ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)といった400以上の卸先を通じて、ビジネス規模を倍にしたい考えだ。10月には、ロンドンのリーゼント・ストリート124番地に新世代に向けた店舗をオープンする予定だという。今後の事業再生や展望、これまでのキャリアなどについて聞いた。
ブランドはジョゼフ氏の精神にならって「変化」が必要だった
米「WWD」(以下、WWD):「ジョゼフ」に入社した理由は?またどのように事業再生に取り組んだか。
バーバラ・カンポスCEO(以下、カンポスCEO):入社の理由は「ジョゼフ」の高い評価と自分自身にとって思い入れのあるブランドだったから。入社当初は、何かする必要があると分かっていたが、まだ明確な戦略はなかった。収益性もブランドのポジショニングも低迷する中で、入社後の100日はビジネスの様子を観察し、全従業員と話した。そして、ジョゼフが残した遺産を活用する必要があるという結論に達した。つまり、商品は女性のワードローブに役立つという使命を果たす必要があり、ビジネスは利益を上げ、自立する必要があった。誰か、または何かが正しくないと思えば、変更を加えた。サプライヤーの多くを変え、職人技と品質に対してさらに注意を払い、工程の全てを見直した。
WWD:エデッドギー創業者の妻で、メイフェアにある英国王室御用達の老舗レザーブランド「コノリー(CONNOLLY)」を運営するイザベル・エデッドギー(Isabel Ettedgui)に会ったとか。
カンポスCEO:そう、ジョゼフのことをもっと知りたかったから。イザベルによると彼は変化を楽しむ人で、美容師としてキャリアをスタートし、髪を切ることでその人を変身させたり、人の自宅に招かれた際には承諾を得つつリビングルームの家具や空間をアレンジしたりしていたとか。変化。それこそが私が着手するべきことだった。
WWD:20年には、共同クリエイティブ・ディレクターを起用する型破りな決定をした。その背景は?
カンポスCEO:実際には、アンナが夫のフレデリックを共同デザイナーとして迎えたいと提案したことだったが、面白いと思った。アンナはウィメンズのクリエイティブ力と専門知識を兼ね備え、フレデリックはメンズの専門知識に加え、ビジネスについても詳しく、彼らの右脳と左脳が共生しているようだった。黒と白、ロンドンクールとパリシック、そしてリラックスしたシルエット。2人はブランドの二面性を象徴しつつ、全てを一つにした。
WWD:コロナ禍でもブランド変革を順調に進めた。どのようにしてロックダウンを乗り切った?
カンポスCEO:私たちは迅速に行動し、計画そしてビジネスモデルを見直す必要があった。ビジネス全体をストップし、倉庫を閉鎖したことで、少なくとも2カ月半は出荷できなかった。でもチームとしての働きぶりにはとても満足しているし、いい成果が出せたと思っている。みんな冷静でいられたし、条件反射的な決定を下すこともなかった。疲労困憊だったけれど興味深い時間だった。
ただし、事業のいくつかのカテゴリーでの見直しや進行中のプランの前倒しを強いられ、優先順位を決めなければならず、家主やサプライヤー、卸先と交渉する必要があった。私たちは信用のある企業であり続けたかったし、互いにサポートし合える人々に敬意を払いたかった。そうした意味では、多くの機会があった。
WWD:今はどのような層にアプローチしているか。それは年々変化しているか。
カンポスCEO:私たちのターゲットは特定の女性や年齢層ではなく、何を着ればいいのかとアイデアを求めている全ての女性に向けて、すごくいい気分でない日でも素敵に見せてくれる服をデザインしている。服は心地よさや自信を与えてくれる親友のような、エフォートレスで気を遣う必要がないものであってほしい。そうしたカテゴリーの中で、常にベストなブランドでありたいと考えている。
今後、欧米でのビジネス拡大のチャンスを想定
WWD:10月オープンのロンドン・リーゼントストリート店について。
カンポスCEO:この冬に迎えるブランド40周年に向け、リーゼントストリート店は、今後の店舗拡大の要になる。リーゼントストリートはロンドンでも象徴的な通りで海外観光客なども多く、イギリス国外に向けて「ジョゼフ」を知ってもらえる絶好のチャンスになる。今後数年で全店舗を新しいコンセプトに刷新していく計画だ。
デザインの面でいうと、これまでより温かみがあり、よりオーガニックで、よりナチュラルな素材を使いたいと思っていた。またコンセプトの重要な要素として、店内にはコレクションに似たさまざまなテクスチャーも展開する予定だ。
「ジョゼフ」はイギリス国内だけでなく、ヨーロッパやアメリカでの成長に大きなチャンスを見越している。今後も着実に成長していくことを目指す。
WWD:ロンドン・ファッション・ウイークでのランウエイショー復活は考えているか。
カンポスCEO:現段階では予定していない。2シーズン前からD2Cマーケティングを始め、ビジュアルやウェブサイト、デジタルマーケティングに多く投資してきた。何人かのインフルエンサーと協業もしているが、いい成果につながりそうだ。ブランドのアンバサダー的な存在として、素晴らしい役割を果たしてくれるだろう。
キャリアにおいてのメンターは3人
WWD:これまでヨーロッパやアメリカの大手ファッション企業でキャリアを積んできているが、その経験をどのように仕事に活かしてきたか。
カンポスCEO:これまでに複数の企業でさまざまなスキルを習得してきたが、特に「ダイアン フォン ファステンバーグ」と「フルラ」「ヒューゴ ボス」では、多くのことを学んだ。ニューヨークの「ダイアン フォン ファステンバーグ」では、リスクテイクについて。彼らは“不可能なことはない”というアメリカンドリームな考えから、常に決断を下していた。試してもうまくいかなければ、別のことを試す。そして成功するまで続ける。その機敏性と回復力をジョゼフで活かしている。
「フルラ」では、イタリア人の問題に対してクリエイティブに解決する方法がとても参考になった。彼らは臨機応変に策を見出す力にとても優れていた。ドイツの「ヒューゴ ボス」では、着実に実行することや製品への敬意、文化の重要性について教わった。全てにブランドらしさが息づいていた。
WWD:あなたにとってのメンターは?
カンポスCEO:3人いる。1人は「ヒューゴ ボス」での最初の上司で、今は退職している人物。彼はビジネスの才覚に加えて、アイテムの技術的な部分も熟知していて、例えばジャケットやズボン、コートの作り方など全てを教えてくれた。また、ウールやコットンの編み方についてもよく知っていて、おかげで私は今でも生地を見れば、ウールとシルクの混紡の割合を言うこともできる。
2人目は、「フルラ」時代の上司だったサラ・フェレロ(Sara Ferrero)元ジョゼフCEO。彼女と「フルラ」を創業したフルラネット(Furlanetto)家は、若かった私に大きなチャンスを与えてくれ、信じてくれた。私のキャリアにおいて大きな後押しになった。サラはとても要求の厳しい人だったが、協力的で、細部にまで気を配ることを教えてくれた。
3人目は、デザイナーのダイアン・フォン・ファステンバーグ。彼女は素晴らしい女性で、成功を遂げ、チャーミングでエネルギーに満ち溢れている。さらに正直で率直で、でもすごく協力的。女性であることを誇りに思い、他の女性の功績を誇りに思っている。そしてユーモアのセンスもある。
WWD:採用の際、面接で最初にする質問は?
カンポスCEO:最も興味があるのは、なぜその仕事をしたいのかということ。そもそもなぜ応募したのか?その答えによって、その人がどれほどの意欲と情熱を持っているのかを知ることができる。
WWD:仕事以外の時間には何をしている?
カンポスCEO:屋外で過ごすのが好きで、ボートに乗ったり、ウエイクボードやサーフィンをしたり、泳いだりしている。また昔から動物好きでもあって、若いころは馬術の競技をしていたし、今は飼い犬のドーベルマンをワーキングトライアル(警察犬のように訓練して成果を競う大会)に出場させるために訓練している。そうしたこともあって、動物行動学に興味を持ち、ケンブリッジ・インスティテュート・オブ・ドッグ・トレーニング(Cambridge Institute of Dog Training)でインストラクター兼行動学者になるための勉強をしている。