ファッション

「リトゥン バイ」「リトゥンアフターワーズ」2015-16年秋冬東京 みんなを笑顔にして心を癒した10分間のファッションの魔法

 大きな地球儀がゴロンゴロンとランウエイに転がってくる。大玉転がし的に誰かが押しているのかと思えば、どうやら中に人が入っているようだ。動きは不規則でヨタヨタしている。この時点で、会場の空気は一気に緩む。続いて、カラフルな洋服を着たさまざまな国の子供たちが登場し、コーラス隊を組み、マイケル・ジャクソンの「ヒール・ザ・ワールド」を歌い出す。決して上手ではなく即席風。そこがまた微笑ましい。会場に入る際に、歌詞を渡されていたが、山縣良和デザイナーは、一緒に歌って欲しかったようだ。「リトゥン バイ」のウエアを着たモデルは2人ずつ登場し、カメラの前に立つと肩を組んで笑顔でポーズを取る。モデルは子どもから大人まで人種をさまざまに、いずれも1980年代から90年代を彷彿とさせるカラフルなコーディネートが特徴。モデルはバックステージに戻ることなく、地球を取り囲むように、ランウエイに残り歌う。幼い頃のマイケル・ジャクソン風のモデルもいる。

 ウエアはニードルパンチの技術を核としたユニセックスのニットコレクションで、モチーフは地球やロケット、落書き風のイラストだ。地球の上にエイリアンやスーパーマンが乗った“着ぐるみ”を着たモデルも登場する。総勢40〜50人のモデルが出そろい。ショーのフィナーレを迎えても、ランウエイ中央に鎮座していた大きな地球はなかなか舞台裏に戻れない。しばらくの間会場の皆が見守り、無事ショーの幕を下ろした。

 「世界の情勢が揺らいでいる今、ユーモアを込めてファッションで何か表現したいと思った」と山縣良和。アイデア源となったのは、「80年代や90年代の空気感で、特にオリビエロ・トスカーニが手掛けた『ベネトン』の広告」。80年代後半から「ベネトン」のポスターやカタログには、基本的に商品は登場せずに差別、紛争、難民、死刑制度といった問題を取り上げていた。「広告自体が先進的だった」。山縣は、1月にパリに渡航した際、滞在先がたまたまシャルリー・エブドの銃撃事件の現場近くだった。「とてもシリアスな空気感だった。その時、日本人である僕ができることを考えた時に、イエスかノーではなく、協調性を発展させることだと思った」。ストレートな表現で、10分足らずで人の心を動かし癒すファッションショーを披露した。

 「リトゥン バイ」は2014年にリアルクローズを提案するラインとしてスタート。アート色の強い「リトゥンアフターワーズ」対して山縣なりに”売れる”洋服が意識されている。

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