三陽商会は、両ラインのクリエイティブ・ディレクターに三原康裕を指名。「70年にわたるモノ作りの歴史や財産を引き出し、新たな視点で再構築する」を目標とした三原と三陽商会のクリエイションは、百貨店メインの新ブランドを生み出した。
三原の参画によって変わったのは、時代性を念頭に置いたニュアンスだ。それは、ブランドの代表的アイテムのコートと、同じくアイコニックなモチーフのチェック柄にも現れている。モノ作りに長けたアパレルブランドは、しばしば洋服一着一着のクオリティーにこだわるあまり世界観の構築が疎かになったり、「確実に売れるモノ」を作るためシーズン毎もしくはコンペティターとの差異が見えにくくなりがち。それを三原は、デザイナーらしいニュアンスとアイデアで、2つのブランドをアイテムだけではなく、世界観でも語れるよう育てようと腐心している。たとえばチェック柄のコートは、ブークレのようなふっくらした素材を用いたり、背面にインタックを盛り込むことでふんわり広がるAラインに仕上げたり、ドロップショルダーのコクーンシルエットで提案したり、ウィメンズの「ブルーレーベル」は、バリエーションが格段に進化。メンズもモッズコートやカレッジストライプのジャケットなどアイテムを拡充し、トレンチとチェックだけじゃないブランドへの成長を図る。
とはいえ、ショー前のインタビューで「70年の歴史は大したもの。働く人一人ひとりのモノ作りに関するノウハウには、学ぶところも多かった」と話す通り、三陽商会のアイデンティティもしっかり踏襲している。リスペクトの意志を込め、フィナーレにはモデル全員がベージュのトレンチに着替えて大行進。トレンチのみならず、メンズの売れ筋だったチェック柄のシャツ、同じくウィメンズのキラーアイテムだったミニ丈のスカートなどは踏襲し、「売る」ことも意識している。