ロレックス(ROLEX)社による、時計小売店「ブヘラ(BUCHERER)」の買収が、時計業界を震撼させている。なかでも「ロレックス」の時計を販売する代理店の幹部たちは“眠れぬ一夜”を過ごしたに違いない。
「ブヘラ」は、スイスの老舗時計店の中でも名門中の名門。創業は1888年とロレックスよりも古く、「ロレックス」の時計取り扱いを始めたのは1924年。以来、両社は緊密なパートナーシップの下、立場は異なるがスイスの、そして時計業界のトップに君臨してきた。現在「ブヘラ」は全世界で100以上の店舗を有する世界最大級の「ロレックス」の正規販売代理店。「ロレックス」の全売上の約10%を担っているとされる。
このニュースに関していちばんお伝えしたいこと、理解して頂きたいことは、今回の買収劇が起きた理由だ。
理由はブヘラ・グループのトップを務める創業家の3代目ヨルグ・ブヘラ(Jorg Bucherer)=オーナーが、創業家で事業継承できないためにロレックス社への事業譲渡を希望したからだ。ヨルグオーナーは90歳近く、一族に後継者はいない。会社の事業継承をどうするか、決断を迫られていた。
時計小売業の世界トップクラスに君臨するブヘラ・グループを買収し、その事業を継承したい--。そう願っていた投資グループや企業は、世界中に数多くいたはずだ。なぜなら高級時計ビジネス、特に「ロレックス」に関連するビジネスは、新型コロナ禍で異常なほど成長した。そしてロレックスから“認定中古ロレックス”ビジネスのスタートを任されたブヘラは、まさにその「ロレックス」の販売をどこよりも得意とする主役であり、ロレックス本社との関係も最も親密な販売代理店だった。一方ヨルグ=オーナーは、一族が3代に渡って築き上げた「ブヘラ」を、最も信頼している企業に託したかった。
そこで選択した“驚きの一手”が、ロレックスによる買収だったのだ。
ロレックスはスイスを代表する優良企業。正確には企業というよりも、時計事業を社会貢献の一環と位置付けて展開する財団だ。そして「ブヘラ」は前述したように昔からロレックスともっとも親密な“准ファミリー企業”ともいえる存在。「ロレックス」のアンティークの修理やメンテナンスで最も信頼できるのが「ブヘラ」というのは、時計愛好家の間では周知の事実だ。
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