舟山瑛美デザイナーによる「フェティコ(FETICO)」が28日、2024年春夏コレクションのランウエイショーを「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で行った。過去2シーズンのショーはアワード受賞による支援での開催だったが、今回はブランド独自でショーを実施。公式会場の渋谷ヒカリエを離れ、東京・品川の寺田倉庫へとキャパシティーを拡大した。
夜8時半のショーには多くの来場客が私物の「フェティコ」の服を着用して集まっていた。会場は白いジョーゼットのカーテンで覆われており、ショー前までは赤いライトに染まっていた。席には「DO NOT DISTURB」と書かれた、ホテルのドアノブに掛けるカードが置かれており、この「邪魔をしないで」という意味を持つ言葉が今季のテーマになった。
「DO NOT DISTURB」に込めた思い
“自由に生きる女性を邪魔しないで”
コレクションの出発点は、舟山デザイナーが今年3月に訪れたパリでの所感にあった。「東京ファッションアワード」受賞の特典で、パリでの展示会を開くチャンスを得た彼女は、4年ぶりの海外渡航である気付きがあった。「旅先で解放感を得たことで、日常ではいかに抑え込んで生きているのかを考えるきっかけになった。周りには性別や年齢、肩書きなど、他者から見られる視点を気にする人も多い。でもそれは、心地良く生きるためには必要のないこと」と舟山デザイナーは言う。「ファッションだけでも身に付けたいものを着て、自分らしさを大切にすれば、人生はもっと豊かになるはず。自由に生きようとする女性を邪魔しないで」。
ソフィ・カルの「HOTEL」から
ノスタルジックな色や柄を抽出
インスピレーション源の一つが、舟山デザイナーがパリ出張中に手に取ったフランスの現代美術家ソフィ・カル(Sophie Calle)の写真集「THE HOTEL」だった。同作品はカルがホテルで働きながら宿泊者の客室を記録するという実験的な一冊で、他者のプライベートな空間を覗くスリルと、ホテルのノスタルジックで華やかなインテリアを楽しめる。今季はホテルの壁紙の花柄や木製家具の色やモチーフをはじめ、ベッドフレームやカーテンの装飾などの要素を抽出し、あらゆるアイテムに彩りを加えた。
フェイ・ウォンの
挑発的であどけない雰囲気
また香港のシンガーソングライターで俳優のフェイ・ウォン(Faye Wong)を今季のミューズに選んだ。彼女は、ウォン・カーウァイ(Wong Ka wai)監督作品「恋する惑星」(1994年)でヒロインを演じ、アジアン・ポップスの女王として一世を風靡した人物だ。「フェティコ」はフェイ・ウォンが1990年代にまとったアバンギャルドなステージ衣装と、当時の空気感のあるミニスカートなどをオマージュした。
またソフィ・カルの「THE HOTEL」のアイデアとも融合し、 “フェイ・ウォンがツアー中にホテルで過ごしているときの服”を想像した、パジャマシャツとパンツのセットアップやニットドレスなども提案した。
アクセサリーも充実
初のバッグとサングラスが登場
今季はアクセサリーも拡充。「フェティコ」初のバッグ2型と、日本のアイウエアブランド「ブラン(BLANC)」とのコラボレーションによるサングラスが新登場している。
シューズは、ラインストーンとスタッズがきらりと光るクロッグを披露。シューズと同様のラインストーンとスタッズの装飾を施したベルトもスタイリングのポイントに。新作の水着やブラは、シースルーのドレスやトップスなどに合わせてレイヤードを楽しめるアイテムとして打ち出している。
ショーの続編は香港で
海外強化のフェーズに
「フェティコ」は今シーズンの東京でのショーを終えた後、9月6日にはブランド初となる海外ショーを香港で開催する。香港の最大のファッションイベント「センターステージ(CENTRESTAGE)」の招へいによるもので、このショーでは東京で発表した内容と異なる演出とスタイリングで挑む予定だ。東コレでのラストルックになった赤いドレスは、「香港への含みを持たせて登場させた」と舟山デザイナー。
設立から3年の「フェティコ」は、早くも50を超える全国の人気セレクトショップや百貨店で取り扱われ、これからは積極的に海外ビジネスへ向き合うフェーズに入った。昨シーズン、初めて行ったパリ展示会では、新たにフランスやイタリアなど海外5社での取り扱いが決まり、今季はより海外市場を意識してドレスを増やしている。
女性の身も心も解放する洗練されたコレクションは、海外でも共感を生むだろう。「フェティコ」の名がアジア、そして世界中に知れ渡る日もそう遠くなさそうだ。