2024年春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」が8月28日に開幕しました。9月2日までの6日間に、全50ブランドがコレクションを披露します。ここでは、単独のショーリポートで紹介しきれなかったランウエイショーやプレゼンテーションを厳選し、3人の取材記者が現場からダイジェストでお届けします。
8月28日(月)
15:00「ナノアット(NANO ART)」
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「ナノアット(NANO ART)」は後藤凪と田中陸人のデザイナーデュオが2020年に立ち上げたメンズブランドで、今回が東コレ初参加。“レストインピース“をテーマに、人間の体に着想した有機的なカッティングやディテールを使ったウエアを披露しました。襟が心臓のような造形のシャツや、ドローコードを髪の三つ編みのようにしつらえたジャケットが登場しました。トップスに散りばめた樹脂は、大阪のテキスタイルメーカーV&AJAPANが開発した、生分解性ポリエステル素材。特定の条件下で堆肥に埋めると生分解されるもので、また“レスト“という言葉から派生して、パジャマ風のセットアップやガウンなども披露しました。(松村)
16:30「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA」
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村田晴信デザイナーによる「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)」は東コレへの参加は3回目となりますが、春夏コレクションのショー開催は今回が初めて。東京・上野の東京国立博物館の法隆寺宝物館を舞台に、屋外の水盤を囲んで新作を披露しました。「前シーズンの重厚感から一転、今回は軽さを意識した」と村田デザイナーが話すように、序盤は白シャツをベースにしたドレープ入りのドレスが登場。足元はフットウエアブランド「オーエーオー(OAO)」との初のコラボレーションスニーカーを合わせており、足取りも軽やか。今季の着想源は、夏の風景を美しく切り取った米写真家スリム・アーロンズ(Slim Aarons)や、映画監督ルカ・グァダニーノ(Luca Guadagnino)の作品。彼らが切り取った夏の情景をほうふつとさせるスカイブルーやグリーン、夕日のようなオレンジからイエローへのグラデーションが目を引きました。フロントローには三吉彩花や西内まりや、馬場ふみかをはじめとする華やかなゲストがブランドのドレスをまとって着席。このコレクションも、彼女たちやエレガントな女性がさまざまなシーンで着用する姿を想像でき、「ハルノブムラタ」が日本発のラグジュアリーブランドへの道を着実に突き進んでいると実感しました。(大杉)
16:30「ヴィルドホワイレン(WILDFRAULEIN)」
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「ヴィルドホワイレン(WILDFRAULEIN)」は、ループ志村デザイナーが2014年にスタートした日本のブランド。今シーズンは“ザ プレイヤー“と題して、アメリカの日曜礼拝文化に着想したコレクションを見せました。ショーは、聖職者をほうふつとさせる白のワンピースをまとったモデルが祈りを捧げるシーンで始まり、デザイナー本人が描いたという宗教画風のタペストリーなどを使ったウエアを披露。また、ミリタリーウエアを日常使いするアメリカ文化を表現するため、カーゴパンツやミリタリーベスト、ジャンプスーツなどをテーラード仕立てにアレンジしたウエアも作りました。首にかけたレザー小物には家やアトリエの鍵を付けて、「これまで歩んできたストーリーをショーに込めた」と言います。ショー後には「次シーズンの東コレでは、もっと大きい会場で、さらに面白いショーを開催する」と熱く語りました。(松村)
8月29日(火)
11:30「ウィルソンカキ」
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「ウィルソンカキ(WILSONKAKI)」は“2021年の注目すべきアジアのデザイナー10人”に選出されたウィルソン・カキ・イップ=デザイナーが同年に設立したユニセックスウエアブランドです。今季は“日常の痕跡(TRACE OF LIFE)”をテーマに、衣服のシワに着想したコレクションに挑戦。シワ加工や大量のスナップボタンでアレンジしたワークシャツやジャケット、カーゴパンツ、デニム、Tシャツなどを披露しました。また、アルミニウムベースの形状記憶生地やボンディング素材、スナップボタンが形成するプリーツや折り目で、“手を上げる、歩く、座る”といった動きの痕跡も表現しました。小物も豊富で、「アシックス(ASICS)」とコラボした“GT-2160”や“GEL-NYC”、1970〜90年代のデジタルウォッチをリメイクした三連時計やネックレス、ベルトも目を引きました。(松村)
13:00「ペイデフェ(PAYS DES FEES)」
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朝藤りむデザイナーによる「ペイデフェ(PAYS DES FEES)」が今シーズンも奇想天外なショーを見せました。アンダーグラウンドと水を掛け合わせた造語“Under Wateround”をテーマに、荒川区にある日本初の下水処理場「旧三河島汚水処理場ポンプ場施設」でショーを開催。安部公房の短編小説「水中都市」に着想して、都市生活と海洋生物が交わり、日常が非日常になるイメージをウエアに込めました。毛羽立ったジャカードやサテン素材で表現したウロコや、ヒレのように見える肩周りのフリル、デポン紀の海洋生物の色鮮やかなグラフィックなど。同ブランドは独創的な世界観で、舞台衣装のような奇抜さがあるものの、トラックジャケットなどのスポーティーなリアルクローズも増やしており、クリエイションの幅の広がりも感じました。(美濃島)
15:00「イージェイシェヤン(EJ SHEYANG)」
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「イージェイシェヤン(EJ SHEYANG)」はシェヤン・ジン=デザイナーが2020年にスタートしたウィメンズウエアブランドで、初のランウエイショーを行いました。深夜の東京の工事現場で見たコンクリートに着想し、“ナイト インザ コンクリート リバー(Night In The Concrete River )”をテーマに掲げました。全体的にダークな色調のスタイリングと、時折見せる青のアイテムが川を想起させます。ワンピースのとがった肩やスクエアシェイプでコンクリートの硬さを表現する一方で、サテンやシルクなどの軽やかな素材で川の柔らかさを表しました。デニムやライニングはデッドストックの生地をアップサイクルしたそうです。着想源となった夜を回想する際の、記憶の曖昧さを表現するため、顔を覆うようなシルバーアクセサリーも組み合わせました。初のショーを終えたジン=デザイナーは「まだ夢にいるみたい、もちろん、またショーをしたい」と笑顔を見せました。(松村)
18:00「コンダクター(EL CONDUCTORH)」
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長嶺慎太郎デザイナーによる「コンダクター(EL CONDUCTORH)」が3シーズンぶりにショーを開催。これまで地下駐車場や演劇場、映画仕立てのビデオなどチャレンジングな表現を続けてきましたが、今回は「原点に立ち返り、ベーシックなショーをしたい」とメイン会場のヒカリエホールBを選びました。テーマは“suppression(抑制)“。長嶺デザイナーは6月、初めてパリに赴いた際に、毎日のように行われるデモを目にして、自分たちの日常は何かに抑圧された状況なのでは?と疑問に思ったそうで、「人々が自由に考え、自分を解放されられる洋服」を構想。クラシカルなムードと反抗心を備えたウエアとして、グレンチェックのウールの上から有刺鉄線を顔料プリントしたセットアップや、荒く引き裂いたデニムやスウェットなどを作りました。ジェンダーレスなミックススタイルも健在で、シャネルツイードのノーカラージャケットや透け感のあるセンシュアルなトップスなどを男性モデルに着せていました。スポットライトがランダムに照らされた会場を、モデルが足早にウオーキングする演出も疾走感がありました。ルックは15体と少ない印象で、欲を言えばもっとたくさん見たかったです。(美濃島)
19:00「クイーン アンド ジャック(QUEEN&JACK)」
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「クイーン アンド ジャック(QUEEN&JACK)」は日本独自の制服文化を元に、日本とイタリアの職人たちが共同制作するウィメンズブランド。今シーズンは“モードな雰囲気をまとうポジティブでエレガントなスクール・ガール”をコンセプトに、ブレザーやセーラー服、スカート、ニットといった制服を再解釈します。ジャケットは大胆なカットアウトやギャザーで形成するパフショルダー、袖のフリルなどでガーリーにアレンジ。シャツやブラウスはレイヤードして奥行きを持たせて、ワンピースはトーマスメイソンやアルビニの生地を使用し、クラシカルな雰囲気も忘れません。セーラーカラーやプリーツなども多用しながら、チェックやピンストライプといったボーイッシュな柄を合わせることで、甘すぎないバランスにしていました。(松村)
8月30日(水)
11:30「トゥー(TWEO)」
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台湾出身のデザイナーの譚芸斯(タン・ウンシ)による「トゥー(TWEO)」が東コレに初参加しました。タンデザイナーは、イッセイ ミヤケの「ハート(HAAT)」で企画などを7年経験した人物。ブランド名は”曖昧”という意味を持つ、中世の英語が由来です。今季は、異国への一人旅で感じた孤独や内省がインスピレーション源なっているそう。例えば、折り返したビスチェ風の装飾を施したタンクトップや、ランダムにギャザーと切り替えを入れたアシンメトリーなドレスなど、旅先での感情をねじれやゆがみにして投影。スモーキーなブルーやベージュなどの色調も、センチメンタルな雰囲気を醸し出していました。一部のモデルは花を入れた円盤型のバッグを片手に歩いていて、ロマンチックな印象も抱きました。ショー後、デザイナーに話を聞いてみたかったのですが、「シャイなので」という理由でインタビューはNG。残念ではありますが、どこかミステリアスで異国情緒漂うコレクションに、個人的に思いを巡らせ浸ることができました。(大杉)
13:00「セヴシグ/アンディサイデッド(SEVESKIG/(UN)DECIDED」
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長野剛織デザイナーによる「セヴシグ/アンディサイデッド(SEVESKIG/(UN)DECIDED」が東京・鶯谷にある元キャバレーのホール東京キネマ倶楽部でショーを発表しました。「セヴシグ」がメンズ、「アンディサイデッド」がウィメンズの合同ショーです。 “IF WE BREAK DOWN THE WALLS (もし壁を取っ払えたら)“をテーマに、戦争に対する長野デザイナーの思いを反映。スラブの伝統的な民族衣装に見られる花の刺しゅうやクロスステッチを、ヒッピー風のスタイルに落とし込み、ダメージ加工したデニムやクラックレザーのライダースジャケットで、争いによって傷を負った人々の心を表現しました。またチャットGPTを使って「トラの頭を持った神」や「赤い豹の毛皮を着た魔女」といった架空の神々をグラフィック化し、アロハシャツやスカジャンにあしらいました。「もし、争いを生み出す障壁を取り除くことができたら、その先に光があるといいな」という理由で、光沢のあるアイテムも押し出しました。(松村)
14:30「グローバルファッションコレクティブ(GLOBAL FASHION COLLECTIVE)」
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「グローバルファッションコレクティブ(GLOBAL FASHION COLLECTIVE)」は、2017年にカナダのバンクーバー・ファッション・ウイークが立ち上げた、国際的なデザイナーをサポートするプロジェクトです。今季の東コレでは「アルサ(ALCA)」「セディム(CEDIM)」「クルールス ダフリック(COULEURS D’AFRIQUE)」「ジャスマ(JUSMA)」「カレン モリヤマ(KAREN MORIYAMA)」「マキシム エドワード(MAXIME EDWARD)」が参加しました。テーラードを再解釈し、プリーツを多用したドレスから、ワイヤーを使用したシルエットまで、バラエティー豊かな合同ショーとなりました。(松村)
15:30「ミツルオカザキ(MITSURUOKAZAKI)」
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「ミツルオカザキ(MITSURUOKAZAKI)」は2018年に岡崎満デザイナーが設立したメンズブランド。今シーズンは夢に着想したコレクションで、寝癖風のヘアメイクをしたモデルたちが、パジャマのようなストライプの、パイピングを施したコートやシャツを披露しました。また、同ブランドらしい斜め方向の鋭いカッティングも多用し、肌を見せたり、ピアスのような金具で穴を繋ぎ合わせたりしました。複数アイテムに刺しゅうした人型のシルエットは、「不思議国のアリス」のキャラクターを表現したもの。さらにアリスをジャカードで描いたニットも登場しました。(松村)
18:00「へオース(HEOS)」
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暁川翔真デザイナーによる「へオース(HEOS)」は、昨シーズンに続き2度目の東コレです。今季のコレクションは「自身のルーツの再定義」と言い、若いころから好きだったミリタリーテイストと、故郷である中国のエッセンスを盛り込んだ色気のあるウエアをそろえました。ミリタリーコートは、胸元や背面のテープまでベージュで統一し、ハリのある生地を使います。ゆったりしたシャツやジャケットは、チャイナジャケット風の前立てや、かつて中国の貿易で使われていた、荷物にぶら下げる許可証に着想したディテールなどで自身のアイデンティティーを加えました。オリジナルテキスタイルも豊富で、オパール加工で蛇柄を表現した軽やかな素材や、ビンテージの小さな布をパッチワークしたようなジャカード生地、一度染めた生地をムラ染めし、その上からシワ加工を施したタイダイ風の素材などを使いました。フィナーレでは天井から火花を降らせる大胆な演出に挑戦。暁川デザイナーは「かつて音楽の道を志したものの挫折し、心新たにファッションに挑戦した」経緯があるそうで、最後の火花には、暗闇の中で見出した、ファッションという希望の光を投影したのだと解釈しました。(美濃島)