資産運用大手アライアンス・バーンスタイン(ALLIANCE BERNSTEIN)はこのほど、ラグジュアリーブランドや業界に精通したルカ・ソルカ(Luca Solca)=アナリストによるリポート「未来の高級品消費者(Luxury Goods Consumer of the Future)」を発表した。市場の動向について、彼は「新型コロナウイルスのパンデミックが明けた幸福感の中で、消費者は高級商材に溺れた後、“冷静さ”を取り戻す可能性が高い。そして、ラグジュアリーの成長はゆるやかになり、このセクターは周期的なパターンに戻るだろう」と分析。ただし、「富裕層とエントリー層という異なる顧客セグメントを取り込めるポジショニングにあるメガブランドの見通しは引き続き明るい」と続ける。
同リポートによれば、ほとんどのラグジュアリーブランドでは、上位5%の顧客が売り上げの40%以上を占め、下位50%の顧客は売り上げの約15%を生み出しているという。そして、「所得と富の格差が拡大し、社会ピラミッドの頂点に立つ人々の消費力が高まっている。現代のラグジュアリー業界はこの10年間、無限にエスカレートしているような限定アイテムやVIP向け施設とイベントなど、以前よりさらに賢く多様な方法で、トップ層の消費者と再びつながりを深めている」という見解を示す。
一方、ラグジュアリーのメガブランドは、ビューティアイテムやシューズ、ベルト、Tシャツ、コスチュームジュエリー、サングラスなど、ウエアやバッグよりも低価格帯のカテゴリーでの商品展開を拡大し、より多くの顧客との接点を持つようにもなっている。例えば、「プラダ(PRADA)」は、8月にスキンケアとメイクアップ製品をローンチしたばかりだ。ソルカ=アナリストの見解では、高級品への欲求は普遍的なものになりつつあり、「私たちは、個人の権利と自己主張の時代を生きている。“理想の自分”になる手助けをしてくれるラグジュアリーブランドは、今の時代の気分や思考に完璧にフィットしている」と述べる。
さらに、大手ラグジュアリーブランドは、「排他性を維持しているように見せる」ためにカテゴリーの住み分けを行うことで、拡大する中流階級にもブランドを浸透させているようだ。これは、エントリー層の顧客向けのカフェやVIP顧客をもてなすプライベートサロンなど、店舗の設備にまで及ぶ。その象徴的な例が、「ディオール(DIOR)」のパリ・モンテーニュ通り30番地にある本店だ。リポートによると、同店は「あらゆるレベルの消費者が“(自分が所属する)階層”の範囲内で楽しめるように構成されており、一般客は12ユーロ(約1900円)で併設するミュージアム“ラ ギャラリー ディオール(LA GALERIE DIOR)”を訪れることができる一方、限られたトップ顧客はプライベートスイートを予約することができ、滞在中に数百万ユーロを使う」。
世界の主要市場の現状は?
リポートでは、パンデミック後の幸福感による2年半の再興を経て落ち着いたアメリカ市場をラグジュアリーセクター正常化の先駆けとして捉えており、その(一時的な)成長の流れを中国市場が引き継いだと見ている。そして、「日本など、コロナによる規制解除が遅かった国の人々は今でもYOLO(You Only Live Onceの略、“人生は一度きりだから思い切り楽しもう”という意味合いの言葉)モードだ。アメリカ人と比べると、ヨーロッパ人さえ、もっと楽観的だ」という。
またソルカ=アナリストは、「平時のラグジュアリー消費は、消費者がより豊かになったと感じているかに左右される。具体的には、経済成長が加速し、資産市場の価格が上昇し、金融緩和が行われたときに消費意欲が高まる」と説明。「ただ、これらの要因がどうであろうと、多かれ少なかれ、お金は使えるうちに使おうという意識は、パンデミックがもたらした結果の一つだ」と話す。