茅野誉之デザイナーによる「チノ(CINOH)」は9月1日、2024年春夏コレクションのランウエイショーを「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で行った。
茅野デザイナーがブランド名を前身の「ベスリール(BETHOURIRE)」から、現在の「チノ」に変えてから10年。今季は「チノ」としての10周年を記念し、3年ぶりとなるランウエイショーを披露した。エレガントで、遊び心のあるブランドらしさに溢れた集大成にふさわしいコレクションだった。
“機能性がデザインになり
デザイン性が機能になる“
今季、茅野デザイナーは明確なテーマを掲げずに、「機能性がデザインになり、デザイン性が機能になる」をコンセプトにしている。例えば、レザージャケットにデザインとして施した花のモチーフはカットアウトした刺しゅうで、通気性を良くするベンチレーションとしても機能する。着脱時に欠かせないドレスのボタンは、裾まで留めることで装飾にもなる。機能とデザインのどちらとも捉えられる “曖昧さ”が24年春夏シーズンのキーワードになった。
ファーストルックには、ヨーロッパを拠点にするトップモデルの樋口可弥子が登場。キラキラ輝くスパンコールのブラトップとパンツにタイトスカートを重ねたルックをまとい、力強いウォーキングでショーの開幕を飾った。
セッションで生まれた
“スピーディな強さ”
ショーの演出も、その“曖昧さ”を感じさせるものだった。会場の渋谷ヒカリエ ホールAは、青いカーペットやバックペーパーを随所に配置し、ランウエイも迷路のようにくねくねと曲がっている。
またバンドの生演奏は、ドラムはtoeの柏倉隆史、ギターは元スーパーカーの中村弘二、ベースは元ナンバーガールの中尾憲太郎という著名な音楽家たちがセッションし、力強くプレー。「予定調和にしたくなかったので、3人には曲を指定せずに“スピーディに強く”とだけリクエストした」と茅野デザイナー。
“今すぐ買える”
コラボアクセサリー
キャッチーなアクセサリーも目を引いた。「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」とのコラボレーションによるスニーカーは、左足は青、右足は赤のシューレースを左右非対称に合わせたユニークなデザインだ。
また、すぐに購入できるアイテムとして「マンハッタンポーテージ ブラック レーベル(MANHATTAN PORTAGE BLACK LABEL)」とのコラボバッグと、アイウエアブランド「アヤメ(AYAME)」とのサングラスが登場。現在、「チノ」表参道ヒルズ店と公式オンラインストアで扱っている。
直営店の訴求と
海外ビジネスへの展望
3年ぶりのショーを行う理由は、10周年を祝す以外にもあった。その目的は、昨年3月にオープンした、表参道ヒルズの直営店をアピールすること。「『チノ』の店舗があることをまだ知らない人も多く、ショーを見てから店頭でアイテムを見てもらう流れを作りたい」と茅野デザイナー。この日に披露したコレクションはすでにバイヤー向けの展示会を6、7月に東京とパリで開催し、受注も終えている。しかしショーを通してコレクションをファンに紹介することで、実売につなげたいという思いがあったのだ。
ビジネスについては「コロナ禍が明けて、このシーズンからやっとパリの展示会に戻れるようになった。次の10年は海外にもっと広げていきたい」と展望を語った。
誕生日サプライズ
“LOVE”に込めた思い
茅野デザイナーはフィナーレの挨拶を終えてバックステージに戻ると、スタッフや出演者たちに拍手で迎え入れられ、花束を受け取った。この日は、茅野の42回目の誕生日だったのだ。当初はショーの日程を別日に予定していたが、止むを得ず変更することとなり偶然重なった。暖かい祝福に涙を流し、感謝を伝えていた。
最後に、茅野が当日着用していた”LOVE”と背中に書かれたTシャツについて尋ねた。これは茅野の愛娘が書いた文字を元に、アーティストの横山奈美がネオンサインにして描いた特別な1枚だという。その原画は表参道ヒルズの店舗に飾られている。「やっぱり愛が必要かと思って」と、Tシャツを着用してきた理由を明かす。この節目に、関係者や顧客への感謝や“愛”を伝えたかったということかとさらに聞くと、「そういうことにしておきましょう」と照れ臭そうに笑った。
来場客はブランドの服をまとって集まり、ショーの後も笑顔で感想を語り合っていた。「チノ」が歩んだ10年は、きっとこの日のように愛に満ち溢れていたのだろう。