英国の高級百貨店ハロッズ(HARROD'S)、ハーヴェイ・ニコルズ(HARVEY NICHOLS)、セルフリッジ(SELFRIDGES)で明暗が分かれている。ハロッズが営業利益を2.5倍以上も伸ばすなど大幅な増収増益に沸く一方で、ハーヴェイ・ニコルズはグループ全体の業績は好調だったものの旗艦店の回復が思わしくなく、セルフリッジは金利の上昇などによって17億ポンド(約3128億円)以上のローン返済に苦戦し、本社での人員削減を検討しているという。英国を代表する老舗百貨店3社について、ハロッズの決算発表や最新動向を中心にまとめた。(この記事は「WWDJAPAN」2023年9月4日号からの抜粋です)
ハロッズは、チャールズ・ヘンリー・ハロッド(Charles Henry Harrod)が1834年にロンドン・イーストエンドで食品や紅茶の卸商として創業し、49年に現在のナイツブリッジに移転。83年には、大火事に遭いながらもクリスマス用の注文に対応し、当初の見込みを上回る業績を上げたという逸話を持つ。1959年には、英百貨店のハウス・オブ・フレーザー(HOUSE OF FRASER)が買収。2010年からは、カタール政府系ファンドのカタール投資庁(QATAR INVESTMENT AUTHORITY)が擁するカタール・ホールディング(QATAR HOLDING)の傘下となっている。
こうした長い歴史を持つハロッズの23年1月通期決算は、売上高が前期比51.9%増の9億9410万ポンド(約1829億円)、営業利益は2.5倍以上(同183.8%増)の2億270万ポンド(約372億円)、純利益はおよそ6.5倍(同556.0%増)の1億3580万ポンド(約249億円)と大幅な増収増益だった。
ティム・パーカー(Tim Parker)最高財務責任者は、「22年はコロナ禍の影響から回復して成長する年だった。年初はまだ観光客が戻っていなかったが、後半はかなり回復した。今後もエクスクルーシブな商品やハロッズならではの特別な体験を提供することで、さらなる成長を見込んでいる」と語った。なお、総取引額はコロナ禍以前である19年の実績と比べて51.1%増加したという。
市場調査会社ユーロモニターインターナショナル(EUROMONITOR INTERNATIONAL)のフラー・ロバーツ(Fflur Roberts)=ラグジュアリーグッズ部門ヘッドは、「高級百貨店のライバルは、ブランドの直営店やECだ。ブランドの路面店がずらりと並ぶ大都市では、それがさらに顕著となる」と分析する。また、コロナ禍の期間中に販売網や卸先の見直しを行ったラグジュアリーブランドも多く、以前とは“パワーバランス”が変化しているという。どの店で、どのように商品を展示して販売するのかについてブランド側の意向が重視されるようになった結果、百貨店は出店ブランドを満足させるべくいっそう努力しなければならなくなった。
例えば、190万以上のフォロワーを持つハロッズの公式インスタグラムのアカウントでは、「ディオール(DIOR)」「ジバンシィ(GIVENCHY)」「カルティエ(CARTIER)」「デビアス(DE BEERS)」など出店ブランドに関する投稿を週平均で9件ほど行っているが、これらはハロッズのチームがスタイリングや撮影を担当して作成したオリジナルのコンテンツだ。
また、ハロッズは22年11月に「ディオール」と組み、ホリデーシーズン向けの大掛かりなプレゼンテーション、“ファビュラス・ワールド・オブ・ディオール(The Fabulous World of Dior)”を23年1月初旬まで展開。建物全体を「ディオール」が大切にしているシンボルやモチーフを表現したイルミネーションで飾り、44カ所のショーウィンドー全てにジンジャーブレッドやアイシングで作られた屋敷や家具、庭園などを設置して商品をディスプレー。店内では、世界中にある「ディオール」の店舗をミニチュアで再現した特設展示に加えて、テーマに沿った期間限定のカフェと、2カ所のポップアップストアをオープンした。なお、情報筋によれば、この“店舗ジャック”によって「ディオール」は2500万ポンド(約46億円)以上を売り上げ、ハロッズでのトップセラーブランドになったという。
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