「ジーユー(GU)」の2023年秋冬方針説明会に参加してきました。「グローバルのファッションをリードする、グローバル・マストレンド・ブランド」を目指し、9月に米ニューヨークに商品本部を設立、CMや販促用ビジュアルも国内外の客を意識した内容に変えるといった内容が会の趣旨でしたが、ではその“グローバル・マストレンド”とは何か。質疑応答でそう聞かれ、柚木治社長は「今秋冬なら、ユーティリティーやアウトドア、テック素材といった要素を組み合わせたスタイルがグローバルで支持されるトレンドになっている」と説明していました。
柚木社長が“グローバル・マストレンド”と語る「ユーティリティーやアウトドア、テック素材といった要素を組み合わせたスタイル」は、既に23年春夏の「ジーユー」店頭でヒットしています。象徴的なのが、シャカシャカ素材のカーゴパンツ。今春夏も街でよく見かけ、「ジーユー」では秋の立ち上がりで、ウィメンズとユニセックスのカーゴパンツを計13品番(丈違いを含む。公式ECサイト上でWWDJAPANが勝手に計測)もラインアップしています。それだけ売れると見込んでいるんですね。
さて、このように注目を集めている「ユーティリティーやアウトドア、テック素材といった要素を組み合わせたスタイル」ですが、一部で“ゴープコア(GORPCORE)”と呼ばれているのをご存知でしょうか。ファッションビジネスは新しい言葉を作ってモノを売るのが常套手段なので、「また言葉遊びか……」と辟易される方もいるかもしれません。でも、これは語源が面白かったので是非ご紹介させてください。
“ノームコア”の継承者?
そもそもこの“ゴープコア”、14〜16年ごろに国内外のファッションマーケットを席巻した“ノームコア”ムーブメントが鎮静化した17年に、「“ノームコア”の次はこれ!」と、米国のファッション媒体が使い始めた言葉だそうです。“ノームコア”は白Tシャツやオックスフォードのボタンダウンシャツ、ジーンズといった、「どノーマルでシンプルなスタイルこそカッコいい」というものでしたが、“ゴープコア”はアウトドアブランドが出しているような、機能素材のマウンテンシェルやウィンドブレーカー、パンツ、バックパックなどを街着に取り入れたスタイルとのこと。アウトドアブランドの製品って、基本的に装飾はなくミニマルなので、必然的にシンプルなスタイルに収斂されます。
「“ゴープ”って何やねん」と思っている人も多そうですが、これは“Good Old Raisins and Peanuts”の略だそう。そう聞いても「だからそれが何やねん」ですよね。でも、山に登る人なら“Good Old Raisins and Peanuts”とは“トレイルミックス”のことなんだと聞けば、「なるほど!」となるはず。“トレイルミックス”というのは、登山中にすぐに栄養補給ができるように持ち歩く、ナッツやドライフルーツ、チョコなどを混ぜた行動食のこと。いろんな素材が混ざったものを買う人もいますが、自分で好きな材料を混ぜて作る人もいます。ちなみに私が登山する時に持っていくお気に入りの“トレイルミックス”改め“ゴープ”は、柿ピーに乾燥小魚、ドライフルーツなどを混ぜたもの。汗を大量にかくのでしょっぱいものが食べたくなるんですよね。チョコは溶けると嫌なので混ぜない派です。
というわけで、“ゴープ”という言葉が象徴するように、山に登るような要素を取り入れたスタイルが“ゴープコア”です。米国では、14年に公開されたリース・ウィザースプーン主演の映画「Wild(邦題:わたしに会うまでの1600キロ)」などをきっかけに長距離の山道(トレイル)を数カ月かけて歩き通すといったアクティビティーが近年注目を集めており、恐らくそうした背景もあって17年に初めてこの言葉が使われたんじゃないかなと推測します。
市場全体がアウトドアウエア化
初出以降、じわじわと認知を広げてきたであろう“ゴープコア”ですが、やはり転機となったのはコロナ禍なんでしょう。アウトドアレジャーを楽しむ人が急増して、①シェルなどを日常のスタイルに取り入れることに違和感がなくなった、むしろそれがカッコいい気がしてきた、②安くはないアウトドアウエアを買った以上、日常でも着たい、③アウトドアウエアは機能的でラクであることに気付き、日常でも手放せなくなった、といった理由で、コロナ後でも「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」や「アークテリクス(ARC’TERYX)」などのアウトドアブランド、山系のガレージブランドは人気が高いです。
そして、そういったムードをより幅広い層に向けて解釈したものが、「ジーユー」が今秋冬のグローバル・トレンドとして推す「ユーティリティーやアウトドア、テック素材といった要素を組み合わせたスタイル」ということなんでしょう。カーゴパンツをアウトドアウエアと定義するのは微妙なラインではありますが、方向性やムードは同じです。また、「秋冬のトレンド」という言葉を使うと一過性のように感じますが、ファッション市場の変遷を長い目で捉えると、この数十年で市場全体が“ゴープコア化”、ないしは“アウトドア化”してきているのは間違いない。いろんなブランドの領域を奪ってきた「ユニクロ」は機能性素材を日常着に持ち込んでいますし、「ザ・ノース・フェイス」でもアウトドアの要素を落とし込んだファッションウエアが好調です。この流れが逆流することは恐らく今後もない。現代人が、コルセット時代に逆戻りすることがないのと同様です。
というわけで、“ゴープコア”という言葉なのか、はたまた新たな言葉が生み出されるかは分かりませんが、“ゴープコア”の根本にある考え方自体は、今後もずっと市場に残り続けていくんだろうと思います。