「リンシュウ(RYNSHU)」は、東京・国立新美術館で2024年春夏コレクションのランウエイショーを9月5日に発表した。同ブランドは1年前のショーでも国立新美術館をショー会場に使用し、テラスをグリーンに染める演出で、ゲストを癒しの空間で包み込んだ。今シーズンの舞台に選んだのは、館内の荘厳なスペース。披露したコレクションは、“Bitter Sweet Romantic”と題したテーマを象徴するようにドラマティックだった。
アート空間の曲線美を包む深いブルー
「リンシュウ」デザイナーの山地正倫周と山地りえこにとって、国立新美術館の館内をショー会場に使うことは念願だった。夕暮れが深まるにつれ、館内を照らした深いブルーの照明の色味が徐々に強まっていく。ショーがスタートすると、日本有数の建築家である黒川紀章が設計した国立新美術館のダイナミックな曲線と、「リンシュウ」24年春夏シーズンの流動的なフォームが、ブルーのライトに溶け合い呼応する。嵐の前の静けさのような空間演出と、建築の力強さ、そしてファッションの美しさを融合させて、ゲストらを引き込んだ。デザイナー2人がショーを行うのは、ただ新作を披露するだけではなく、空間全体にみなぎるファッションのパワーを世界中に届けたいという思いがあるからだ。
熟練の技術で色彩を操る
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ファーストルックを飾ったのは、シアーなオーガンジーを重ねたエレガントなドレスだった。深いブルーからライトブルー、パステルなグリーン、ピンク、パープルへと色彩が軽やかに変化する。今シーズンは、ブラックや夜明け前の空のような深みのあるブルーといったダークトーンと、鮮やかな色味のコントラストを効かせたカラーリングが目立った。
本格デビューから2年がたったウィメンズは、エレガンスの表現がますます拡張している。体のラインを美しく見せるシャープなフィットに、動きに合わせてなびく艶を帯びたファブリックの美しさや、多彩に変化するヘムラインの遊び心、卓越した技術で異素材をハイブリッドし、クラフツマンシップを盛り込んでいく。
一方のメンズは、「リンシュウ」が得意とするテーラリングが軸だ。メンズ特有の硬派なシルエットに、コートにショーツを合わせたフォームの長短や、エッジの効いた色使いでリズムを加える。メンズにはウィメンズウエアの柔らかさを、ウィメンズにはメンズウエアの厳格さを取り入れ、正倫周の技術とりえこの感性を交差させることで、「リンシュウ」流モダンエレガンスを表現した。
軽やかな素材が感情も揺らす
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ドレスとテーラリングをさらに美しく輝かせるのは、個性的な素材の数々である。スーツやブーツには炎をイメージしたアート柄を大胆に刺しゅうし、インナーやドレスの繊細なネット生地にはグリーンやパープル、ブラックの小さいスパンコールを縫い付けた。ブラックのオーガンジーには雲のような中綿を立体的に付け、シルクサテンにオーガンジーを重ねて刺しゅうで縁取りし、羽のように集積させたスカートなど、無二のファブリックがモダンエレガンスなスタイルに奥行きを加えていく。この圧巻のテクニックの連打により、見る者の感情も徐々に波打っていった。
ファッションは人生の喜びである
今シーズンのコレクションは、デザイナーが南の島で夜空の雲を見上げた際に着想したという。正倫周は、「そのときの揺れ動く感情を、東京のショーだからこそできるディテールにこだわった。総合芸術としてのランウエイショーを披露し、ファッションを通じて人生の喜びを伝えたかった」と明かした。
正倫周がいう“総合芸術”を実現させたのは、りえこがディレクションしたショーのヘアメイクやBGMである。「これから恋が始まるような、嵐の前のざわめく気持ちを表現したかった」とりえこ。開演前のBGMには、雨と雷鳴に加え、焚き火の音をミックスし、「一夏の恋のような、静かでぞわぞわした雰囲気」を演出したという。
2人のデザイナーはファッションを通じて、1年前は癒しを、前シーズンは愛を届けてきた。今シーズンのショーを通じて表現した人生を謳歌する素晴らしさは、この日会場にいたゲストをはじめ、映像を見た視聴者にも響いていくだろう。「リンシュウ」は、世界をポジティブに変えるファッションの力を信じ、これからも世界に伝えていく。
RYNSHU
03-3402-5300