ファッションデザイナーのマルク・ボアン(Marc Bohan)が9月6日、フランス・ブルゴーニュ地方のシャティヨン・シュル・セーヌで死去した。享年97歳。葬儀は、13日に現地のサン・ニコラ教会で執り行われる予定だという。
ボアンは1926年パリ生まれ。デザイナーのロベール・ピゲ(Robert Piguet)やエドワード・モリノー(Edward Molyneaux)のアシスタントとしてキャリアをスタートし、53年に自身のメゾンを設立したものの、わずか1シーズンで閉鎖。54〜57年には「ジャン パトゥ(JEAN PATOU)」のオートクチュール・コレクションを手掛けた。その後、58年に「ディオール」のロンドン支社にクリエイティブ・ディレクターとして入社。2代目クチュリエのイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)が徴兵によりメゾンを去った60年、ボアンはその後任に抜てきされた。初めて手掛けた61年春夏オートクチュール・コレクションでは、“スリムルック”を発表。「ディオール」を最も長く率いたデザイナーであり、その期間は創業者のクリスチャン・ディオール(Christian Dior)自身よりも長い。89年まで、30年近く同メゾンのコレクションを手掛けてきた。
プライベートを大切にする人物であったボアンは、冷静沈着な性格と“リアルな女性”のための服のデザインを重視することで知られた彼は、“タイムレスな美の概念”を表現。「私は現実の女性のために服を作っているのであって、自分のためでも、マネキンのためでも、ファッション雑誌のためでもない。抽象的なクリエイションは喜んで他のデザイナーに任せる」と、メゾンの創立25周年を記念した米「WWD」のインタビューで語っていた。
また、「私のスタイルは、キャリアを通じて一貫していた。顧客である女性たち以外の誰かのためにデザインしていたわけではなかった。彼女たちが美しいと感じることが重要だった」と07年に振り返っていたボアンは、コンサバティブなセンスの良さにユーモアや気の利いた要素を取り入れたスタイリッシュでフェミニンなクリエイションで評価を得た。キャリアを通して、エリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)やソフィア・ローレン(Sophia Loren)、グレース・ケリー(Grace Kelly)、ジャクリーン・ケネディ(Jacqueline Kennedy)、ブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)、マリア・カラス(Maria Callas)らを顧客に抱え、俳優や歌手からファーストレディーやロイヤルファミリーまでに愛された。