デザイナーのピーター・ドゥ(Peter Do)が手がける新生「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」のランウエイショーが9月8日(ニューヨーク現地時間)に行われた。ラングと言えばミニマリズムの先駆者として1990年代に隆盛を極めたデザイナーだが、2005年にデザイナーを退任してからはアーティストとして活動し、ファッションの表舞台から姿を消している。ラングの退任後にリンク・セオリー・ホールディングスの傘下となった「ヘルムート ラング」は、18年春夏シーズンに「フッド・バイ・エアー(HOOD BY AIR)」のシェーン・オリバー(Shayne Oliver)とコラボレーションを行いコレクションを発表したが、今回のコレクションはそれ以来の話題を集めることとなった。
会場の床にはドゥの友人でもあり、同じくベトナムにルーツを持つアーティストのオーシャン・ヴィオング(Ocean Vuong)の詩から引用した言葉が綴られていた。ゲストに配ったコレクションノートもヴィオングによるものだ。彼がロードトリップに出た際の回想から始まり、車という存在について語られている。車はどこにでも行ける自由を提供しつつ、時には部屋のようにリラックスできる場所であり、時には周囲から隠れることのできる場所であり、時には泣くことのできる場所でもあるーー。こうした一節やTシャツにプリントした「YOUR CAR WAS MY FIRST ROOM OUR CLOTHES ON THE FLOOR LIKE STEPPED-ON FLOWERS(あなたの車は私の最初の部屋 私たちの服は踏まれた花のように床に落ちている」と言った言葉には性的マイノリティが感じてきた思いが隠されているとともに、ドゥの思いを代弁しているかのようでもある。
ファーストルックではリーンなシルエットの黒のパンツスーツにシートベルトのようなピンクのファブリックテープをボディに巻き付けた。3ルック目までは同じようにボディをクロスするようにピンクのファブリックテープをあしらい、パンツにもサイドラインをデザインした。ピンクのファブリックテープ使いは「ヘルムート ラング」全盛期の1994年秋冬コレクションで発表したコレクションからのオマージュのようだ。
他にもイエローキャブを彷彿とさせるイエローをシートベルトのように斜めにペイントしたコートや、イエローのファブリックテープをボディで交差したパンツスーツのルック、イエローキャブのグラフィックプリントを施したアイコニックなパンツスーツやセットアップが登場した。コレクションのBGMも車のクラクションやニューヨークの地下鉄のプラットホームで流れるアナウンス音など、慌ただしいニューヨークの日常を彷彿とさせる。98年に「ヘルムート ラング」はファッションブランドとして初めてイエローキャブの上部に広告を出し、タクシーや車はブランドにとってアイコニック的な存在と言ってもいい。こうしたディテールからもドゥのラングへのオマージュが感じられる。
後半はレザーを取り入れたスタイリングやドゥが得意とするクリーンでリーンなシルエットのテーラリングが続き、合間にヴィオングのメッセージをプリントしたシャツやTシャツのスタイリングが登場した。他にもアーカイブからの引用を思わせるシフォンをツイストして体を包み込んだカラードレスなど、ドゥ流に「ヘルムート ラング」を解釈している。「ヘルムート ラング」が紡いだ歴史は今後、現代の感覚を体現するドゥによってどう生まれ変わっていくのだろうか?