「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」などを擁するケリング(KERING)のフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)会長兼最高経営責任者(CEO)は、一族の投資会社であるアルテミス(ARTEMIS)を通じ、米タレントエージェンシーのクリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー(CREATIVE ARTISTS AGENCY以下、CAA)の過半数株式を取得した。取引額は非公開。
CAAは、1975年にカリフォルニア州ロサンゼルスで設立された。トム・ハンクス(Tom Hanks)、ブラッド・ピット(Brad Pitt)、ゼンデイヤ(Zendaya)、ビヨンセ(Beyonce)、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)ら多数の俳優やアーティストに加えて、デザイナーやモデル、スポーツ選手の代理人を務めているほか、ブランドマネジメント事業なども行なっている。共同会長を務めるブライアン・ロード(Bryan Lourd)、ケビン・フベイン(Kevin Huvane)、リチャード・ロベット(Richard Lovett)は取引の成立後も続投し、ロード共同会長はCEOも兼任する。
アルテミスは、92年にピノー=ケリング会長兼CEOの父であるフランソワ・ピノーが設立。ケリングの株式の40.9%を保有しているほか、競売会社のクリスティーズ(CHRISTIE'S)、クルーズ会社のポナン(PONANT)、ワインシャトーのシャトー・ラトゥール(CHATEAU LATOUR)などに加えて、ファッション領域では「クレージュ(COURREGES)」「ジャンバティスタ ヴァリ(GIAMBATTISTA VALLI)」などのブランドを擁しており、複数のテック企業にも投資している。なお、今回の取引では、13年にわたってCAAの株主だった投資会社TPGキャピタル(TPG CAPITAL)の保有分を取得。情報筋によれば、取引の目的はCAA所属の俳優らにケリングの傘下ブランドの商品を身に着けてもらったり、アンバサダー就任を容易にしたりするためではなく、あくまでも戦略的な投資の一環だという。
ケリングはカンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)の主要スポンサーの1社であり、「グッチ」はロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)による「アート+フィルム ガラ(ART+FILM GALA)」のスポンサーを長年務めるなど、映画業界との縁が深い。また、「サンローラン」は2023年4月に映画制作の子会社サンローラン プロダクション(SAINT LAURENT PRODUCTIONS)を設立し、映画市場に本格的に参入している。