「化粧品の新商品を出すたびにごみを作っているようで嫌になった」と開口一番印象的な言葉を述べたのは、環境保護につながる未来を創造するサキュレアクトを3月に起業した塩原祥子社長だ。25年携わった化粧品業界を卒業しようと考えた最中に、地球環境を改善する可能性を秘めた微細藻類に出合い、プラスチック商品を使用しない、ごみを出さない工夫をするライフスタイルブランド「530(ファイブサーティ)」を7月に立ち上げた。塩原社長は消費者の意識、行動変容につながるきっかけになることを願い、これまであまり語られてこなかった化粧品業界の裏側を明らかにした。
WWD:長年化粧品業界でモノ作りに携わり、課題に感じていたことは。
塩原祥子サキュレアクト社長(以下、塩原):日本の化粧品市場は約2兆5000億円で、その内の1兆円を大手企業が占めている。残りの1兆5000億円を中小企業が展開するが、チャネルは、百貨店やバラエティーショップ、ドラッグストア、ECと多岐にわたり、それぞれのチャネルを得意とするメーカーがひしめいている。化粧品の年間出荷個数個数は約25億個(2022年経済産業省化粧品出荷統計)で、化粧品使用人口を約5600万人(15歳以上の女性人口約5100万人、男性使用人口約500万人)と想定すると年間41個を消費しないと全ての出荷数を消費することができない。実際には化粧品使用人口が年間18個消費すると仮定すると、製造した時点で約56%が廃棄対象の可能性があるのだ。その状況は決して健全ではない。
WWD:ドラッグストアも同じ状況か。
塩原:前職ではドラッグストアを主力販路とするメーカーに属していたので、むしろ一番環境が良くない気がする。全国にドラッグストアは約2万5000店舗あるが、売れている店舗は1割にも満たない2000店舗といわれている。化粧品の使用期限は未開封で3年(開封後は約1年)で、年2回の棚の入れ替え時に売れ残った商品が3月と9月に大量に返品される。韓国コスメの使用期限は2年と印字されているが、期限が切れたので交換してほしいと普通に言われる。中には一度も店頭に出ないまま返品されることもあった。これらは防犯タグがついたまま戻ってくるものもあるため、再度販売することは難しい。そして、化粧品は液体のものが多いことから分解して処理が難しく、パッケージも単一素材ではなく複数の素材で複雑に構成されているものが多いためリサイクルできない。安売り業者に販売するか、産業廃棄物として処理するしかない。そんな状況を常に見ていると新商品を出すたびにごみを作っているようで嫌気が差し、二度と化粧品業界に関わりたくないと退職した。
WWD:異業種からの参入も多く、化粧品業界に参入しやすい環境もある。
塩原:日本で研究所と自社工場を有している化粧品メーカーは15社程度しかない 。そのほかはOEMで生産している。研究所がなくてもモノ作りができ、200万円あれば化粧品が作れるため参入障壁が低くなっている。化粧品はもうかるという神話があるが、昔ほど小売り店側にブランドを育成する気概もないため、10年継続できるブランドは多くない。返品商品のコスト、卸への手数料を考慮すると、販売価格の10〜20%の商品原価で抑えないとビジネスとして成り立ちにくいのが現状だ。
微細藻類との出合いで、再び化粧品業界で奮起
WWD:化粧品業界の闇に触れ、一度は離れる決意をしたが再び挑戦する
塩原:微細藻類を活用した新規事業を知る機会があり、微細藻類を培養し、石油に変わる代替エネルギーを作るプロジェクトに興味を持った。微細藻類は肉眼では識別困難なサイズだが、二酸化炭素を酸素に変換する光合成生物で、食物連鎖の出発点である生産者といわれている。太陽光と二酸化炭素さえあれば無限に増殖する微細藻類から、将来的にはSAF(持続可能な航空燃料)を生産する予定の企業と協業することで、生産過程で生まれる副産物を抽出・精製し化粧品や容器の原料にできるのではないかと考えている。24年春以降には商用化が実現しそうで、現在はどう商用に落とし込むか模索している最中だ。
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WWD:こうした取り組みを広めるためブランドを立ち上げた。
塩原:7月に「530」が誕生した。ブランド名には“ごみゼロ”という思いをのせており、プラスチック容器を使用しないスキンケアや洗剤、雑貨類を扱う予定だ。第1弾のせっけん“シーデザインソープ”(25g×4、3300円)をマクアケで販売したところ、想定の3倍の売り上げを達成した。 新素材で海の波紋をデザインした九谷焼のソープディッシュ(2200円)も販売する。
WWD:“シーデザインソープ”は、プラスチックごみを含めた海洋汚染が進む海の現状を表した。
塩原:仕込みから乾燥まで最大30日間かけるコールドプロセス製法を採用。全て手作業のため余分なエネルギーは使用しないで作り上げた。ヤシ油やオリーブ果実油、ヒマシ油など天然由来成分99%以上配合し、4種ともお菓子のようなかわいらしいデザインを意識したが、実は一つ一つが海の状態を表現したもの。ブルーの“blue color soap”は「美しい海」、サーモンピンクの“red-orange color soap”は「赤潮の海」、ブルーと白の2層からなる“mix color soap”は「プラスチックの浮かんだ海」、ブラウン系の“brown color soap”は「海底の砂漠化」をそれぞれ表した。海洋汚染問題を生活の中で身近に感じでもらえるものをビジュアル化することでプラスチック商品使用の削減を意識してもらえたら。ビーチクリーン運動の実施やホームページに漫画で読む環境問題などを掲載している。こうして行動や知識を得てもらいごみゼロの地球を実現するための一歩を踏み出してもらえたらうれしい。