「アナ スイ(ANNA SUI)は2024年春夏コレクションを9月9日(現地時間)に発表した。会場はクロスビーホテルのスクリーンルーム。ポップコーンが配られ、ファンタジー映画の上映が始まるようなワクワク感が会場を包んだ。
ショーが始まるとスクリーンにはフランス人映画監督のジョルジュ・メリエス(Georges Melies)が手がけた「妖精たちの王国」(1903年)と「海底2万マイル」(1907年)のレトロの映画が映し出され、モデルたちが壇上に現れた。人魚や熱帯魚を思わせるコーラルブルーやグリーンのルックに身を包んだモデルたちは、ボタニカルプリントやイソギンチャクのようなビジューを飾り、クラゲのようにヒラヒラと揺れるローブをまとい、まるで海の底にいる生物たちのよう。「オーバーサイズの魚柄のセーターがお気に入り」とデザイナーのアナ。虹色のカフタンドレスのスタイルは、まるで人魚のような妖艶さも醸し出す。レトロなヘッドドレスやギンガムチェックのホルタードレスなども登場し、ノスタルジックなムードも漂う。
オーストラリアのゴールドコーストを訪れたアナは美しい珊瑚や魚など、目の前に広がる海底の世界に魅了された。「そこで見た海底は今まで見た中で一番と言ってもいいゴージャスな世界だった」と語ったが、昨今の地球温暖化や異常気象によってアナが目にした美しい海底の珊瑚が減少していることに心を痛めたという。事実、ニューヨーク・ファッション・ウイーク期間中のニューヨークは異常な暑さと突然の雷雨に見舞われるなど、皆が地球の悲鳴をひしひしと感じている。アナが思う海の底のファンタジーな世界をコレクションに投影するため海底についてのリサーチを開始し、「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」(2020年)からもヒントを得た。コレクションで登場したヒラヒラ、キラキラ、虹色に光る素材やプリントは海の神秘を褒め称えている。
その言葉通り、一つ一つのルックに手の込んだ素材や装飾、カラフルな色使いを用い、アナが海に寄せる思いを宿した。メタリックなアメジスト色のレザージャケットに海底の気泡を思わせるロングドレス、フラミンゴ色のシースルーシャツにスパンコールのビキニトップとミニスカート、パウダーピンクのハンドニットカーディガンにクリスタルが刺繍されたセットアップ。メタリック、ニット、ビジュー使い、シフォンの透け感、虹色に輝くベルベットーー。素材の表情のラインナップは実に豊富で、アナが目にした海底の世界が目の前に広がる。スタイリングに花を添えるジュエリーは「エリクソン ビーモン(ERICKSON BEAMON)」によるもので貝やパールにビジューを掛け合わせ、海底の珊瑚礁を彷彿とさせる。アナはコレクションノートの最後に海洋保護団体の「ミッション ブルー」の情報を掲載し、ここから海底保護のさらなる情報が得られると綴った。ファンタジーな世界観の中に隠された海洋保護への想いをファッションを通じて伝えている。