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「ユニクロ:シー」クレア・ワイト・ケラーが語ったユニクロとラグジュアリーの違い

ユニクロは9月15日、「クロエ(CHLOE)」や「ジバンシィ(GIVENCHY)」を率いてきた英国人デザイナー、クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Kellar)によるウィメンズの新ライン、「ユニクロ:シー(UNIQLO : C)」を国内外で発売する。発売を前にクレアも来日し、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長やユニクロのR&D統括責任者である勝田幸宏グループ上席執行役員らと記者会見に登壇。「ユニクロ:シー」に込めた思いやモノ作りへの取り組み方、ユニクロの印象などを率直に語った。ここでは、クレアと勝田上席執行役員が「WWDJAPAN」の個別インタビューで語った内容を公開。記事末尾では、記者会見でのクレアと勝田上席執行役員の発言も紹介する。

WWD:これまでさまざまなメゾンで働いてきたが、今回ユニクロで働いてみて、他のブランドや企業と比べてどんな印象を抱いたか。

クレア・ワイト・ケラー(以下、クレア):ユニクロは第一にオフィスが非常に巨大。これまで働いてきたブランドとはビジネスの規模が全く異なる。そのようにスケールが大きいにもかかわらず、非常に細かい所にまで目を配り、あらゆることに高い精度を求める会社であるということは私にとって嬉しい驚きだった。商品が投入されるまでに、デザインや生産のプロセス全体でチェックにチェックを重ね、本当に精緻にモノ作りをしている。ここまでやるとは想定外だった。その一例がフィッティングだ。

WWD:今回は5回もフィッティングを行ったと聞いた。

クレア:その通りだ。これまで働いてきたパリのブランドでは、もっと早い周期でコレクションを作る必要があり、フィッティングにそこまで時間をかけることはなかった。「ユニクロ:シー」は年間2シーズンのスケジュールでモノ作りが進んでいるが、パリで仕事をしていた時は年間4シーズンで、12週間で1つのコレクションを仕上げなければならなかった。それに比べると、今は倍以上の時間がかけられる。以前は短時間でコレクションを仕上げていくために、私はデザインに専念し、生産や品質の確認といった部分は担当者に任せていたが、「ユニクロ:シー」では全てのプロセスを私自身がチェックできる。時間はたっぷりあり、忙し過ぎて大変ということはない。

WWD:「ユニクロ:シー」は、以前ディレクションしていた「クロエ」と比較されることも多い。自身でも通じる部分はあると思うか。

クレア:「ユニクロ:シー」は私の美意識に基づくパーソナルなスタイルを、ユニクロのプラットフォームを通して作り上げている。もちろん、以前のブランドでの私の象徴的なスタイルに通じる部分もあるだろうが、私は自分自身のスタイルを表現しようと今回も取り組んでいる。

WWD:「クロエ」時代しかり、長年“リアルウーマン”に向けて服をデザインしてきた。ラグジュアリーブランドを着る女性ももちろんリアルウーマンだが、ユニクロと組むことで、これまでよりももっと幅広い女性たちに向けてモノ作りができる。

クレア:まさにそうだ。作った服をより多くの方に着ていただけるのは、ユニクロというブランドだからこそ。それは「ユニクロ:シー」に取り組む上で大きな喜びになっている。「クロエ」や「ジバンシィ」での仕事においても、私のクリエーションを「すてきだ」と言っていただく機会はあったが、気に入ってはいても買えなかったという人も多い。ユニクロと組むことで、私がデザインした服を多くの人に着ていただける機会があるというのはとても嬉しい。

「リアルな女性を今まで以上に追求」

WWD:「クロエ」や「ジバンシィ」で働いていたころと今を比べると、女性たちがファッションに求めるものは変わっているか。

クレア:どんなときも女性のニーズはその時々で変わっている。直近ではパンデミックもあったし、私自身も3年間ファッションビジネスから離れていたこともあって、以前とは異なる視点でファッションを見つめることができている。これまでもリアリズム、つまり服を着る人のことを重視してデザインをしてきたが、今まで以上にそれを考えるようになった。現代人は常に動いていて、仕事の打ち合わせや食事、出張、オンライン会議、プライベートとさまざまなシーンがある。そういった自分の時間軸に合わせて、パッキングしてどこにでも持っていけて、ケアも簡単で、シーンに合わせてさまざまに着回しができる服が必要になっている。その点を今まで以上に強く考えてデザインしている。

WWD:「ユニクロ:シー」のCに合わせて、今後はシーズンごとにCから始まるさまざまな単語をキーワードにするというアイデアを聞いた。「クロエ」時代もバッグにアルファベット順の頭文字で名前をつけるなど、クリエーションにおいて言葉がキーになっているように感じる。

クレア:今シーズンの「ユニクロ:シー」は、Color、City、Communityなど、Cから始まるいくつかの単語によって、コレクションの持つさまざまな側面に光を当てた。言葉は人につながっていくものだ。言葉によってコレクションや商品の背景にあるストーリーを伝えていくことで、作り手側の表現したいことを単なる情報としてではなく、自分ごととしてお客さまに届けることができると考えている。

「世界一になるためには、欧米で売ることが重要」

WWD:ユニクロは世界一のファッションブランドを目指しているが、世界一になるために、何が足りていないと思うか。

クレア:欧米のマーケットに広がることが重要だ。私は欧米のファッションマーケットのことはよく分かっているので、私の知識を提供することでユニクロはさらに前進できるのではないか。ファッションの捉え方やファッションに求めるものは、欧米とアジアとでは異なる。それらをうまく融合して、グローバルなスタイルとして出していきたいと思っている。例えば欧米ではシアーな素材が女性らしさもあって好まれるが、ユニクロの世界であるアジアではあまり求められない。どちらにとってもちょうどいいポイントを見つけ、ユニクロでうまく機能する方法で欧米のお客さまにも満足していただく。そのやり方を見つけていきたい。

WWD:ユニクロはテック素材を使った機能性商品が強みだが、その分繊細なデザインが求められるウィメンズウエアに弱いという課題がある。機能性ドリブンというユニクロのブランドイメージには同意するか。

クレア:確かにそうだ。ただ、テクノロジーやイノベーションがあるからこそユニクロの服が大好きだという人もたくさんいる。そこに私が自分の美意識として培ってきたものを持ち込めば、いいものができると思っている。機能性素材を作って、使用することもとても面白い。これまでのブランドではあまりテクニカルな素材を使ってこなかったが、ファッションにおいて機能性と感性という2つを合わせることは非常に興味深いと感じている。

WWD:ユニクロにとっては、今回の取り組みでの最大の学びは何か。

勝田幸宏ファーストリテイリンググループ上席執行役員ユニクロR&D統括責任者(以下、勝田):クレアさんは自身で緻密なリサーチを重ねており、ファッションの知識や引き出しがものすごい。別のデザイナーと比べるわけではないが、こんなに地道にリサーチを続けているのかと非常に驚いた。だからこそ、(取り組み相手のブランドに対し)「あなたたちならこういった感じがいいんじゃないか」とアイデアを出すことができる。彼女はアトリエに、資料として大量の服のアーカイブを持っている。クレアさんにも登壇いただいた9月12日の社内のコンベンションで、柳井(正ファーストリテイリング会長兼社長)が「過去を知り、今を知らないと未来なんて分からない。過去と今が分かっていないとビジネスなんてできない」といった趣旨のことを話していたが、彼女が服のデザインにおいてやっていることはそれとまさに同じ。そういった姿勢を社内の企画チームのメンバーにはぜひ見習ってほしい。服のデザインに限らず何事も、積み重ねられてきたものに足していくという伸展のあり方を学んでほしいし、自分もそうでないといけない。

WWD:具体的に、どんなアーカイブを持っているのか。

クレア:仕事を始めた1990年代から服を集めており、2000着ほどある。「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」や「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」「ジル サンダー(JIL SANDER)」「プラダ(PRADA)」と、挙げ出したらきりがない。もちろん、自分がディレクションしていた「クロエ」や「ジバンシィ」もある。リサーチのために集めているというよりも、単にコレクションしたいという気持ちもある。そのために多くの部屋が必要で大変だ。参考資料の本や写真も中毒じゃないかというくらいたくさん持っており、写真は8万5000点ほどある。スナップ写真だ。街行く人のバッグや靴をフォーカスして撮ることもあるし、建物や景色、気に入ったソファの柄、心ひかれた色や形など、自分が面白いと感じたものを記憶するために撮っている。

「メンズウエアもぜひ作りたい」

WWD:一緒に働いているユニクロのメンバーはどんな人たちか。

クレア:フレンドリーでとても働きやすい人たちだ。距離を隔てて働くため、言葉については心配だったが、皆英語も上手で心配は杞憂だった。そして、どんなことに対してもなんとかトライしようとするユニクロチームの努力の姿勢には驚かされた。柳井さんは、昨日のコンベンションでのスピーチを聞き、業績などのビジネス面だけでなく、関わる人ひとり一人に心を砕き、事業全体に責任を持っているリーダーだという印象を持った。だから成功しているんだなと。

WWD:柳井会長は一般的に、要求が非常に細かいというイメージも言われるが。

クレア:細かくなければ絶対に成功はできない。私が見てきた限り、(LVMHグループを率いる)アルノーさんもラルフ・ローレン氏も皆非常に細かい。ローレン氏は店頭でマネキンのチェックをしていたし、アルノーさんもアジアに行けば必ず各ブティックを見て回って、何か問題がないかをチェックしている。大きなビジネスのオーナーは、皆共通して非常に細かいものだと思う。

WWD:「ユニクロ:シー」はウィメンズのコレクションだが、メンズウエアも作りたいと希望していると聞いたが。

勝田:先週、パリで現地メディア向けの展示会やパーティーを行ってきたが、そこで僕もクレアさんも一番よく聞かれたのが「メンズはやらないのか?」だった。

クレア:「ぜひメンズもやりましょう!」と今勝田さんにプッシュしている。うまく説得して、メンズも企画できればいいなと思っている(笑)。


【以下、記者会見での掛け合いや質疑応答から】

――ユニクロがクレアとタッグを組んだ理由や経緯を教えてほしい。

勝田:クレアさんとは、2年前のちょうど今ごろから話をしていた。「ユニクロ:シー」は一回限りのコラボレーションではなく、ずっと続けていって、お互いに成長できるプロジェクトにしたいとわれわれは考えている。ユニクロはグローバルで店舗網を広げ、世界中のお客さまから支持されているが、課題の1つとして、ウィメンズウエア特有の繊細さを表現できていない点がある。繊細なプロポーションや色、ディテールなどを、普段着の中に持ち込みたい。ユニクロの企画チームとしてももちろん努力するが、そういうデザインに長けた外部のデザイナーと組もうと、いろんな人と話をした。

クレアさんは「クロエ」をけん引したイメージが強いが、キャリアの原点は「ラルフ ローレン」のメンズクロージングラインだ。基礎としてメンズの構築的なデザインを徹底的に学び、その後さまざまなブランドで活躍してきた。当時、自分も前職でバイヤーだったので印象深いが、彼女を起用した「プリングル オブ スコットランド(PRINGLE OF SCOTLAND)」が突然おしゃれに変わったのをよく覚えている。メンズクロージングという基礎があるからこそ幅広いアウトプットができ、“LifeWear”の方向性を分かちあえばわれわれの課題を解決できるのではと思い、彼女と組むことを決めた。

――ユニクロのことを以前から知っていたか。

クレア:10年以上前から知っていた。きっかけはジル・サンダー氏と組んでいた「+J」で、初めて買った商品も「+J」のメンズアイテムだ。サンダーさんのような人があれほどの規模で協業するのだから、きっと面白い会社なんだろうと思っていたし、サンダーさんがユニクロとやってきたようなことが私もできたら楽しいだろうなと感じていた。「ユニクロ:シー」のプロジェクトが始まって以降は、居住地のロンドンと東京を何度も往復している。18カ月の間で、今回が10回目の来日だ。

――「ユニクロ:シー」で大切にしていることは。

クレア:達成したいのはタイムレスなスタイル。それを特に象徴しているアイテムがトレンチコートだ。全体として、私の持ち味である柔らかい感覚やフェミニンな要素があって、長い期間着続けたいと思えるものを目指した。色も非常に重要だ。白、黒、グレーといったニュートラルカラー同士を組み合わせるだけでなく、さまざまな色を取り入れつつも、それが補完しあって響き合い、うまくコーディネートできるということを証明したかった。

勝田:色をはじめ、かなり緻密に計算して作っているという印象を抱いた。

クレア:その通りだ。

――「ユニクロ:シー」というブランドネームに込めた思いは何か。

クレア:クレアのCというのはもちろんだが、City、Color、Combination、Collaborationなど、Cから始まるさまざまな言葉がキーになっている。「+J」や「ユニクロ U」と同様に、「ユニクロ:シー」のCにもユニクロの持つさまざまな考え方や切り口が詰まっている。(ブランドネームを考えてほしいと言われたとき)勝田さんへのメールにCから始まるさまざまな言葉を列挙した。今後のシーズンも、Cから始まるさまざまな言葉をキーワードとしてあげていこうと思っている。

――“エフォートレス(effortless、肩ひじ張らない、といった意味)”という形容詞が「クロエ」時代などにはよく使われ、会見の中で自身も使っていたが、“エフォートレス”とは具体的にどういうあり方やファッションを指すのか。

クレア:それは日常着においてとても重要なことだ。仕事や家族との用事など、現代人はやらなければならないことがたくさんある。肩に力を入れなければならないようなことは極力減らしたい。着るものがラクであるということは非常に大切であり、自分の動きに合わせて服も動いてくれるようなものがいい。シーズンごとに常に新しいものを買わなければならないというあり方も違う。ずっと着られるということも“エフォートレス”だ。繰り返しになるが、タイムレスに、長い期間着てもらえるということはデザインするにあたって非常に重視している。今、求められているのはモダンでありながらタイムレスな商品だ。

――ユニクロの生地や縫製のクオリティーについてはどう感じたか。

クレア:非常に高い水準にある。私が使用にゴーサインを出した素材がユニクロ社内の品質基準に合わず、数週間後にもう一度素材を選び直したこともあった。今までの私の品質に対する基準も高かったが、ユニクロはそれ以上だった。高品質の生地であっても、耐摩耗性など、使っていくとどうなるかという部分にも細かく気を配っている。

――サステナビリティにはどのように取り組むか。

クレア:2つの手法で取り組む。1点目は素材を厳しく選定し、より環境負荷が低いものを選ぶこと。2点目は、ワードローブに長く残るアイテムを作っていくこと。「ユニクロ:シー」のアイテムを、「これさえ持っていれば大丈夫」と長い期間着てもらえたら嬉しい。

――三児の母親でもある。仕事とプライベートの両立において重視していることは何か。

クレア:何事も整理整頓が大事だ。そして、仕事にも子どもにもちゃんと時間を割くこと。大学生の娘もいるが、彼らのロールモデルになることも意識している。こんなふうに仕事とプライベートの両立がちゃんとできると見せることが重要だ。

勝田:すばらしい先輩と仕事をする機会を得て、先日面談をしたユニクロ社内のデザイナーは、「将来は私もクレアさんみたいになりたい」と話していた。ユニクロとクレアさんとがお互いに成長できればと思っているし、最終的には、お客さまにファッションの楽しさが伝わればと思っている。

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