ロンドン芸術大学を拠点とするセンター・フォー・サステナブル・ファッション(Centre for Sustainable Fashion.以下、CSF)は、ケリング(KERING)やIBM、「ヴォーグ ビジネス(VOGUE BUSINESS)」とグローバルなファッション・コンペティションの「ファッション・バリュー・チャレンジ(Fashion Values Challenge.以下、FVC)」を共同開発した。日本から唯一審査員を務めた、鎌倉サステナビリティ研究所(以下、KSI)の青沼愛代表に話を聞いた。
青沼愛KSI代表理事 プロフィール
2004年からバングラデシュの教育支援に携わる。SRI投資助言会社を経て、11年からバングラデシュやミャンマーなどの工場を中心に社会監査(ソーシャルオーディット)や労働環境改善業務に携わる。その後、大手アパレル企業のサステナビリティ部にてアジア圏における取引先工場の労働環境改善、工場従業員の教育支援プロジェクトを担当。現在は、幅広い業界の社会監査を国内外で行いながら、サステナビリティ関連コンサルティングも行う。特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン理事も務める
――2018年に設立したKSIとは?
青沼愛鎌倉サステナビリティ研究所代表(以下、青沼代表):04年からバングラデシュの働く子どものたちの教育支援に関わり、その後、SRI関連企業を経て、11年からソーシャルオーディター(社会監査人。製品を製造する自社工場や、サプライチェーン上にある取引先工場の労務・人権・環境などをチェックし、問題があればその改善を促す役割を担う)としてバングラデシュやミャンマーの工場の労働環境改善に関わってきました。その後、ファーストリテイリングのサステナビリティ部でアジア圏のサプライチェーンを担当し、18年にKSIを設立しました。KSIの発起人の1人である、青山学院大学の北川哲雄名誉教授と私は鎌倉在住で、鎌倉で定期的にお茶を飲みながらさまざまな業界の動向について情報交換をして、KSIの構想がスタートしました。企業のサステナビリティに関する活動を加速させるには、質の良い情報と信頼できるネットワークが重要であるという思いから、業界を超えて「フラットであること」「中立であること」そして「ファクトをベースとしたディスカッションをすること」を中心として始まりました。
コアな活動として、サステナブル・ファッション、ビジネスと人権などに関する定期的な勉強会や体系的な連続講座を業界の実務者や学生向けに行っています。多くの実務者が参加してくださるのを嬉しく思っていますし、意欲ある学生さんには奨学金制度として受講料を全額または一部免除して応援しています。私自身は、KSI運営をしながらソーシャルオーディターとして、さまざまな業界のサステナビリティ分野に関わっています。
KSIでは、業界やセクター、国を超えて共に議論をすることを大切にしており、面白い化学反応が起きていると感じます。例えば、ファイナンスに関わる方がファッション産業に関心を持ち、学生と一緒に学ぶなど。学生が純粋な問いを投げかけることで、サステナビリティ担当者と本質的な議論に発展する機会も多く、国内外の専門家が新たな事例を紹介してくれることで、担当者の意識や行動に影響を与ることもあります。
――どのような契機でFVCに関わることになった?
青沼代表:FVCは、世界中からサステナブルファッションに関するアイデアを募集しています。学生部門と企業部門があり、それぞれ優勝者は半年間、CSFやケリング、IBM、「ヴォーグ ビジネス」からメンターを受ける機会や、オンラインのプログラムを受講する権利などを得ます。
KSIは、20年からCSFと連携して彼らの教育コンテンツを日本語にし、サステナブル・ファッション講座で受講生に提供しています。その流れから、FVCの初回からグローバル審査員として関わらせて頂いています。
――今年は日本から3組がファイナリストとしてグローバルに推薦された。グローバル審査員からの反応は?
青沼代表:審査会では日本から推薦した3組ともとても高く評価されていました。ファッションを通して想いが循環するエコシステムを届ける「E組 from Enter the E」、埼玉・秩父発の地域で循環するものづくり「レイナ イブカ(REINA IBUKA)」、そしてファッションを通してオール・インクルーシブな社会を目指すアパレルブランド「ソリット!(SOLIT!)」と、今年のテーマである「ファッションはどのように社会を価値づけることができるのか?」に対して、3組がそれぞれ違った個性と、信念を持ったアプローチをされていることも特徴的でした。また日本のカルチャーを背景にしたビジネスプランやモノづくりに対しての評価もとても高かったです。
4月にはCSFのニーナ・スティーブンソン(Nina Stevenson)教育責任者を招いたオンラインイベントを開催し、3組のアイデアについて意見交換をする機会を設けました。ニーナはグローバル審査員の視点でそれぞれのアイデアに対するリスペクトと気づきを共有してくださり、とても良い議論ができました。
――KSIの今後と、KSIがファッション業界に期待することは?
青沼代表:CSFと連携したことで、海外からのサステナブル・ファッションに関する情報に触れる機会がさらに増えています。世界中でどんなアイデアが議論されているのか、どんなアクションが起きているかを日本に紹介していきたいし、同時に、日本にある素晴らしいアクションを海外に届けるニーズも感じています。
最近はサステナブル・ファッションについて発信する方々も増え、関心の高さを感じます。私たちの強みは国内外の専門的な情報を持っていること。色んな方々と連携し、私たちの情報を使って頂き、さらにその先の多くの人たちに知ってもらえたと思います。
ただ、私たちだけではマンパワーが足りないので、今後日本から賛同する方々を集め、FVCも含め、サステナブル・ファッションを一緒に盛り上げていきたいです。さまざまな方が関わることで、ファッション業界が抱える課題を軽やかに解決して、さらに楽しく、ワクワクするアイデアがたくさん生まれることを願っています。